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演題詳細

S1-4:
木を見ず森を知る:微生物を斟酌せずに硝化速度や脱窒速度を測る
○角皆 潤, 中川 書子 名大・院・環境学 urumu@nagoya-u.jp
O原子には三種の安定同位体 (16O, 17O, 18O) が存在し、したがってδ18Oおよびδ17Oという二つの独立した安定同位体比が存在している。同じ分子の各同位体分子種 (14N16O3, 14N16O217O, 14N16O218Oなど) が質量以外に差がなければ (=質量の違いのみに依存して同位体分別していれば) 、δ17O値の変化に対するδ18O値の相対的な変化は、反応の種類や進行度合い、さらに関係する分子の種類に依らず、以下のような簡単な比例式で表される(Young et al., 2002; Matsuhisa et al., 1978) 。
δ17O = 0.52×δ18O       (1)
陸水や海水、土壌、堆積物と言ったような一般的な地表環境中で、アンモニア等から硝化反応を経て生成するNO3 (NO3re)中のO原子は、式(1)で表される質量依存の関係が成立するO2やH2Oに由来し、さらにそれが生成する過程で起きる同位体分別も一般的な質量依存同位体分別であるため、必ず式(1)が成立する。一方、大気中でO3からO原子を受け取って生成したNO3 (NO3atm) だけは式(1)が成立せず、式(1)が成立した場合に期待されるよりも有意に大きなδ17O値を示す (Michalski et al., 2003; Tsunogai et al., 2010) 。
そこで以下の式(2)で定義されるΔ17Oを用いてその大小を定量化すると、NO3reは0‰、NO3atmは平均+26‰となり、NO3atmが沈着後にNO3reと混合した場合は、その混合比に応じてΔ17O値は減少する。
Δ17O=δ17O- 0.52×δ18O       (2)
一方、何らかの一般化学反応(=質量依存同位体分別)を受け、部分的に分解した場合は、δ17Oやδ18Oは変化してしまうが、Δ17Oは変化しないで同じ値を保持する。従って、ある環境試料中に存在するNO3のΔ17Oを測定すると、その中に含まれるNO3reとNO3atmの混合比を求めることが出来る。混合比は、その系に対する供給速度の比を反映するので、NO3のΔ17Oから、その系に対するNO3reやNO3atmの供給速度や除去速度を定量化することが出来るようになる。NO3reの供給速度とは硝化速度であり、また除去速度とは、系に依っては脱窒速度を表すので、NO3のΔ17O値を利用することで、培養に依らずに硝化や脱窒の定量化が可能になる。本講演では、その詳細と意義について、具体例をもとに紹介する。
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