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演題詳細

S3-1:
群集生態学であぶり出す共生微生物間の大規模ネットワーク
○東樹 宏和 京都大・人環
次世代シーケンサーの登場によって、微生物叢(microbiome)の構造を記載しやすくなったとは言え、共生微生物で構成される相互作用系の動態を理解するのは極めて困難な課題である。1個体の植物体内であっても、数百・数千種の細菌や真菌が共生しており、その1種1種のゲノム構成や遺伝子発現パターンをたとえ詳細に解明できたとしても、共生系全体レベルの現象理解との間には大きなギャップが存在する。植物体内では、無数の共生微生物種の間で複雑な相互作用のネットワークが構成されていると考えられ、その動態を理解すること自体が複雑系科学の課題として極めて挑戦的である。
発表者は、次世代シーケンシングによって得られた微生物叢データをネットワーク科学と群集生態学の枠組みで解析することにより、無数の微生物種とその宿主生物で構成される複雑な共生ネットワークの全体像を解明してきた(Nature Communications 5:5273; Science Advances 1:e1500291)。現在、この手法を応用し、宿主体内における共生微生物どうしの相互作用ネットワークを大規模に解明する研究を進めている。植物根内の共生真菌叢を対象として行った最近の研究では、一見複雑な根内微生物叢が少数の離散的な型(rhizotype)に分類されることを発見した(Journal of the Royal Society Interface 13:20151097)。この離散的な型の形成においては、宿主体内における共生者間の連携や競争が影響力を持っていると考えられるため、その潜在的な種間関係の全体像をネットワーク構造に還元して考察した。その結果、宿主体内での関係性において、明確なネットワーク・モジュール構造が明らかとなっただけでなく、それぞれのモジュールにおいて中核的な役割を担っていると予想される種の存在が浮き彫りとなってきた。
宿主が植物であれ動物であれ、次世代シーケンシングを用いた解析では大量の共生微生物が検出されるのが一般である。その無数の微生物の中から、微生物叢全体の動態を制御している可能性のあるものを事前情報なしに抜き出すこの研究アプローチは、基礎・応用両面での重要性を今後増していくと予想される。ヒト腸内細菌叢データへの適用事例も紹介しながら、今後の方向性について論じたい。
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