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演題詳細

S3-2:
再構築された土壌微生物群集の超長期培養
○加藤 広海1, 渡来 直生2, 森 宙史2, 大坪 嘉行1, 永田 裕二1, 黒川 顕2,3, 津田 雅孝1 1東北大・院生命, 2東工大・院生命理工, 3国立遺伝研 katee@ige.tohoku.ac.jp
細菌叢は地球上の様々な環境に形成されているが、土壌環境の細菌叢は、莫大な構成種によって形成されている点で興味深い。この細菌多様性は農業生産や環境浄化等の土壌機能の根幹を成していると考えてられているが、この複雑な菌叢構造がどのような原理よって形成されるのかはほとんどわかっていない。そこで我々は、近年腸内細菌叢の分野で目覚ましい成果を上げているノトバイオロジー技術を土壌環境に応用することで、細菌叢が新規土壌環境でどのように多様性を増加させながら複雑化していくのか、時間と共にどのようなレベルで安定もしくは変遷していくのかを調べることにした。本研究では特に、 土壌から抽出した細菌叢を滅菌した元の土壌に移植する、いわゆる「戻し」移植を実施し、次世代シーケンサーによる16S rRNA gene amplicon sequencingで経時的に菌叢を行なうことで、元の菌叢を再現できるのか、並列サンプルの菌叢形成プロセスに再現性はあるのかを明らかにした。暗所25°Cの一定条件で培養した結果、移植された細菌叢は数週間で最大菌密度109 16S rRNA gene copies/g soilに達し、その後2年間は栄養添加なしで菌密度を維持した。菌叢解析の結果、菌叢サイズが増加する初期数週間はFirmicutesProteobacteriaが優占するものの、徐々にAcidobacteria等の由来土壌で優占していたグループの割合が回復し、移植後半年から1年目にはgenusレベルで由来土壌の菌叢構造に概ね戻る傾向を、またその後2年目まで安定する傾向を示した。一方で、97%OTU組成は実験期間内で安定せず、また菌叢における割合が戻った多くのgenusにおいて初期とは異なるOTUによって構成種が置き換わっていく傾向が見られた。これらの結果は異なる分類階層において、菌叢の復元性(レジリエンス)と構成種の置換性という異なる性質が現れていると考えられた。さらにこれら菌叢の遷移プロセスは、並列サンプル間で極めて高い再現性を示したことから、安定条件下における土壌細菌叢形成は予想以上に determinative(決定論的)な現象であることがわかってきた。
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