○山道 真人
京都大・白眉/生態研
近年、適応的な進化(遺伝子頻度の変化)が短期間で起きること、またそのような「迅速な進化」(rapid evolution)が個体数の変動や群集構造、生態系機能に大きな影響を与えうることが明らかになってきた。特に微生物は世代時間が短く、集団サイズが大きいことから、薬剤耐性の獲得といった適応進化が短期間で起こりやすい。そのため、微生物生態学において、迅速な進化は群集構造の理解に重要な役割を占めると考えられる。
本発表ではまず、プランクトン・真菌・細菌などを対象に調べられてきた迅速な進化と群集動態との間の相互作用、すなわち「生態―進化フィードバック」(eco-evolutionary feedbacks)についての先行研究を紹介する。ここでは、進化と種間相互作用が個体数変動のパターンをどのように変えるか、という点に注目して、適応進化が絶滅を防ぐ「進化的救助」(evolutionary rescue: Bell & Gonzalez 2009 Ecol. Lett.)や、公共財を介した個体数と遺伝子頻度の振動(Sanchez & Gore 2013 PLoS Biol.)、防御形質の進化によって捕食者―被食者系の個体数振動の位相差が周期の25%から50%(逆位相)に変化する「逆位相振動」(antiphase cycles: Yoshida et al. 2003 Nature)、また被食者の個体数が一定であるにもかかわらず捕食者の個体数が振動する「隠れた振動」(cryptic cycles: Yoshida et al. 2007 PLoS Biol.)といった代表的な動態の例に触れる。その際、微生物群集の培養実験と数理モデルという2つのアプローチを組み合わせる有効性を強調したい。
次に、群集と進化の間のフィードバックを今後さらに深く理解していくために必要な研究の方向性として、多種が相互作用するネットワーク・適応のメカニズム・時空間的な不均一性・適応的でない進化などのテーマを提案する。最後に、微生物群集とその他の群集の違い、長期的な進化が群集にもたらす影響、進化生物学と群集生態学のアナロジーについても議論したい。