Imgheader01

第31回大会ホームページへ

演題詳細

S4-1:
水圏ウイルスハンティング今昔: 細胞死が狩りの合図だった時代
○長崎 慶三 高知大・黒潮圏 nagasaki@kochi-u.ac.jp
 一般的に、ウイルスと宿主は敵対関係にあると捉えられがちである。演者が藻類ウイルス研究を始めたときもそうだった。赤潮がウイルスの攻撃により消滅するという現象をより厳密に証明すべく、赤潮の原因となるプランクトンを死滅させるウイルスを探した。何とかしてそのウイルス(正確にはウイルスとその宿主)を手に入れ、実験室内で飼うことを望んだ。試行錯誤の末にそれは叶い、様々な感染試験を実施することによっていくつかのウイルスの性状を明らかにすることができた。 言うまでもなく溶藻性のウイルスを生け捕るには宿主培養が必要である。その宿主藻体の死滅を引き起こすウイルスサイズの粒子を探索し、捕獲すること。まさにこの「細胞死を指標とした狩り」からウイルス研究はスタートしたものだ。世界各地でそうした努力が積み重ねられた結果、現在ではかなりの数のウイルス-宿主系が実験室内で飼育されるようになった。藻類宿主の範囲は緑藻・プラシノ藻・円石藻・珪藻・渦鞭毛藻・ラフィド藻など多岐に亘り、この事実は、あらゆる生物がウイルスの攻撃を受けるであろうという仮説を支持しているようにみえる。 だが近年、新たな技術の開発により状況は大きく転じつつある。Urayama et al.(2015)は、潮溜まりに生えた天然の珪藻細胞群の中に少なくとも20種類を超えるRNAウイルスが「宿主にこれといった異常を呈さないままに」共存しているということを報じた。すなわちここにきて、水圏中のウイルス対宿主の関係性は、当初想定されていたよりかなり「寛容」であるという可能性が示唆された。「感染→発症→死滅」といった激しい現象も確かに存在する。が、様々な環境下においてウイルスと宿主の平和的な共存がごく普通に果たされている可能性が、NGS技術等の目覚ましい発展に伴い徐々に明らかになりつつあるのである。 では何か?ウイルスの存在理由は何なのか?ウイルスはいかなる機能を持ち、いかなる役割を果たしているのか?宿主がウイルスとの共存を許容し続けるのはなぜか?進化の歴史は、なぜ両者の共存を認めてきたのか?こうした謎を解くためのアプローチが今まさに始まろうとしている。様々な分野の専門家あるいは若手の方々の熱烈な参画を強く期待する。
PDF