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演題詳細

S4-2:
アメーバウイルス研究がもたらしたインパクト
○緒方 博之 京都大・化研 ogata@kuicr.kyoto-u.ac.jp
ウイルスはその発見当初から生命と物質の境界にあった。19世紀後半、タバコモザイク病の研究から、「微生物はろ過装置で除去できる」との当時の微生物の定義に適合しない病原体が単離され、「ウイルス(毒液)」の呼称が定着した。分子生物学の黎明期、ウイルス研究は遺伝暗号の解明に寄与し、ゲノム時代にはサンガーらにより最初の完全ゲノム決定の標的となった(1977年、φX174、 5375塩基)。しかし、小型のウイルスはリボソーム程度の大きさであり、ウイルス=「非生命」の見方は広く定着し、ゲノム熱狂時代も1996年の最初の真正細菌ゲノム決定まで到来しなかった。
 近年、こうしたウイルス研究に変化がみられる。ウイルスが生命科学の直接の対象となり、ウイルスの生態系・生命進化における位置づけを議論できるようになってきた。こうした変化の要因の一つがアメーバ感染性のミミウイルスの発見である(2003年)。ミミウイルスは粒子径が0.75μm、光学顕微鏡で観察でき、粒子には100種類以上のタンパクが含まれ、全長118万塩基対のゲノムには遺伝子を1000個以上コードし、その半数以上は機能予測不能である。その複雑さと未知数はマイコプラズマなどの最小生命を凌駕し、第4のドメインを形成するとも言われている。アメーバウイルスの研究はその後も重要な発見をもたらした。ウイルスに感染するヴァイロファージ、スターゲートと呼ばれる特殊なDNA放出システム、2016年にはラウルトらにより、ミミウイルスがヴァイロファージに対する獲得免疫システムを保有するとの提案もなされた。同時に、多様な巨大ウイルスが次々と発見されている。
 我々は、転写系・複製修復系遺伝子に着目しミミウイルスなど巨大ウイルスの進化を追求してきた。ミミウイルスの系統は「第4のドメイン」との呼称に相応しく細胞性生物のドメインの起源までさかのぼると推定され、現存のゲノム多様性は原核生物の多様性を上回るとの認識に至っている。ウイルスはこれでも、生命と物質の境界にあるのか?ウイルスを直接の対象とする研究から何が分かるのか?T4ファージやHIV研究からは得られない新たな生物学が開けるのか?講演では、我々が行ってきた研究も含めて、巨大ウイルスの世界を概観し、ネオウイルス学創生へ向けて議論を喚起したい。
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