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宿主を殺さず共存するウイルスを網羅する時代へ
○浦山 俊一
海洋研究開発機構
我々が認知できる変化は非常に限られており、病気のような明確な“兆候”が観察されない場合でも、ウイルスはありとあらゆる生物に存在し、その生命の状態に様々な影響を及ぼしているようだ。 ウイルスの単離が主たる研究手段であった1990年代まで、多くのウイルス探索は宿主生物が示す病徴を指標として行われきた。そのため、必然的に高い病原性を示す感染症ウイルスが主要な研究対象となり、ウイルス=病原体という認識が形成されてきた。しかし近年、この状況は分子解析技術の発展により変わりつつある。例えば植物や真菌、昆虫などから非病原性または低病原性ウイルスが、また、無病徴の野生動物からMARSなどのヒト病原ウイルスが検出されている。中には宿主生物の生存に有利に働くと考えられるウイルスまで報告された。これらの事実は、我々の手元にある病原ウイルスを主としたウイルスリストが、実は発見が容易な“目立つウイルス”に偏ったものであることを示唆している。 地球最大の生命圏として多様な生物を育む海洋でも、養殖において問題となる感染症ウイルスや微生物を殺すウイルスが主要な研究対象とされてきた。近年の単離に依らないウイルスメタゲノム解析においても、細胞外を浮遊しているウイルス、つまり細胞を破って出てきた病原ウイルスが解析対象となっており、非顕在性の“目立たないウイルス”はほとんど着目されてこなかった。そこで、病徴に依存しないウイルス探索手法を確立して浜辺の珪藻コロニー1つを調査したところ、20種以上の新規RNAウイルス全長ゲノムが検出された。その他にも様々な“普通の”海洋生物から多数のウイルスが検出されており、海洋においてもウイルスはありふれた遺伝因子として生物の中に共存している可能性を示している。 本発表では、「これら“目立つウイルス”と“目立たないウイルス”がどの程度存在するのか?」その概要を明らかにすることを目指した研究内容も紹介し、宿主を殺さず共存するウイルスの存在と広がりに目を向けてみたい。