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演題詳細

S4-4:
ウイルスと微生物の競合的共進化
○吉田 天士 京都大・院農 yoshiten@kais.kyoto-u.ac.jp
細菌感染性ウイルス(「ファージ」とも言うが、「ウイルス」に統一する方向で議論が進んでおり、ここではウイルスと呼ぶ)の発見から100年となる。かつて分子生物学の中心であった細菌ウイルスが、海洋に大量に見いだされ再び注目されている。海洋ウイルスは細菌に対して数の比で15倍、その総数は1030粒子に達する。毎日、20%-40%の海洋細菌が、感染溶菌されていると見積もられ、ウイルスは細菌から溶存有機物への流れを変え、地球規模の物質循環過程に大きく寄与している。これに加えて、ウイルスは次の大きく3つの様式で細菌の多様性にも大きく影響を及ぼす。1)感染と同時に宿主のゲノムに入り込み、宿主のゲノム複製と同調して増殖するウイルスは溶原ウイルスと呼ばれる。溶原ウイルスは遺伝子ベクターとして、宿主の遺伝子型を変える。2)環境に適応し偶発的にある微生物群集の環境密度が高まることがある。しかし、密度の高まりによりウイルス感染頻度も増し、結果的にその宿主微生物群集の密度は減少する(頻度依存的選択)。3)細菌は制限酵素やCRISPRといった多様なウイルス防御獲得機構を獲得してきた。これに対しウイルス側では、防御を回避して感染するものが現れる。こうした両者間での軍拡競争ともいうべき共進化過程により、微生物-ウイルスの遺伝的多様化が促されてきた。ウイルス感染しばしば個体の死を引き起こす。しかし、生物種レベルでみれば、ウイルスは特定の微生物個体群による長期的な環境占有を妨げ、微生物多様性を維持する効果をもたらす。また環境で増えたウイルス-微生物感染系では、共進化が促され、宿主に新たな遺伝子型が生じるチャンスを増やす。我々は、ウイルスによる微生物多様化と多様性維持が並列的に生じているとの仮説を検証すべくプロジェクトを進めている。仮説の検証はまだ道半ばであるが、これまでに海洋に優占するウイルスの完全長ゲノムを数多く構築することに成功した。さらにウイルスの遺伝子は、共存する宿主微生物の中で活発に転写されていた。メタゲノムに現れるウイルス配列は、別の場所から漂ってきたウイルスに由来するのではなく、共存する微生物-ウイルス間の相互作用が頻繁に起こっていることを明確に示している。講演では、このような本プロジェクトの現状を交えつつ、ウイルスが存在することの本質的な意義について議論したい。
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