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ウイルスによるロドプシン遺伝子の水平伝播
海洋表層の光エネルギーの利用は従来シアノバクテリアに代表される酸素発生型の光合成生物に限定されて考えられてきた。しかしながら、この常識は2000年以降の相次ぐ発見により大きく揺らぎつつある。2000年に海水をターゲットとしたメタゲノム解析から、微生物型ロドプシンが海洋細菌の間に広く分布することが明らかになり(Beja et al. 2000)プロテオロドプシン(以下、PR)と命名された。PRはオプシンタンパクに発色団のレチナールが結合した光受容タンパクで、光を受容すると細胞内からプロトンを排出して膜電位を形成し、そのエネルギーでATP合成をする。言わば、“光駆動型プロトンポンプ”である。その後の研究から、海洋表層に生息する細菌の数十%(多い海域で約80%)がこの遺伝子を保持すること、真正細菌・古細菌・真核生物の3ドメイン全てから見つかることが明らかになってきた。またロドプシン遺伝子の分子系統解析から、16S rRNAとPR系統関係の不一致が様々な分類群で報告されており(Frigaard et al. 2006)、ロドプシン遺伝子がPhylum間やDomainを超えるような遺伝子の水平伝播を通して多様化してきたと考えられている。 一方、「Proteorhodopsin genes in giant viruses」(Yutin and Koonin)というタイトルの論文が2012年に発表され、海洋由来Giant Virusの中にPR遺伝子を持つものが存在すること、海洋細菌を対象としたメタゲノムデータから当該遺伝子が多数見つかることが報告され、VirusによるPR遺伝子の水平伝播の可能性が示唆された。しかしながら、Giant virusの持つPR遺伝子がどの生物由来なのかは依然よく分かっていない。また、Giant virusの持つロドプシンは“プロテオロドプシン”と呼ばれてはいるが、プロトンを輸送するために必須のアミノ酸部位が保存されていないことから、光でプロトンを輸送するのか?それとも他の機能を持っているのか?などの基礎的な事柄も分かっていない。 本発表では、現在利用可能なVirusメタゲノムデータにどの程度ロドプシン遺伝子が存在するのか?またVirusが持つロドプシンの機能は何なのか?に注目し、海洋微生物間におけるVirusを介したロドプシン遺伝子の水平伝播の可能性を議論したい。