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Stable Isotope Probingによるベンゼン、トルエン、ジクロロメタン複合汚染分解微生物の同定
○吉川 美穂1, 張 銘1, 栗栖 太2, 豊田 剛己3
1産総研, 2東大, 3東京農工大・院
バイオレメディエーションは、微生物により地下水や土壌中の汚染物質を浄化する低コストな技術である。バイオレメディエーションに関する研究の多くが、単一の汚染物質、または単一の汚染物質とその分解産物を対象としているが、実際の汚染サイトには複数の汚染物質による複合汚染が数多く存在する。複合汚染時に各汚染物質を分解する微生物を特定することを目的に、本研究を行った。
本研究ではベンゼン、トルエン、ジクロロメタンの3種の汚染物質を対象とし、これらを好気分解する微生物コンソーシアムを確立した。同一の土壌を接種源として、常に好気条件で培養したコンソーシアム(AE/AE)および嫌気条件と好気条件を交互に繰り返して培養したコンソーシアム(AN/AE)の2種類を作製した。分解微生物の特定にはStable Isotope Probingを用いた。好気条件下で各コンソーシアムに3種の汚染物質を添加し、そのうち1種類は13Cでラベル化したものを用いた。また、全て12Cの汚染物質を添加した対照系も作製した。汚染物質分解の進捗に合わせてコンソーシアムからDNAを抽出し、超遠心分離により浮遊密度が連続的に異なる18画分に分画した。各画分の微生物叢は制限酵素HhaIを使用したT-RFLPで解析し、得られたT-RFsはクローン解析により同定した。
AE/AEに13C-ベンゼンを添加したケースでは352bp、13C-ジクロロメタンを添加したケースでは337bpのT-RFで、DNA量のピークが対照系より重比重画分へシフトした。AN/AEへ13C-ベンゼン、13C-トルエンを添加したケースでは、それぞれ201、558bpのT-RFで重比重画分へシフトした。AE/AEの13C-トルエンおよびAN/AEの13C-ジクロロメタン添加のケースではシフトは確認されなかった。クローン解析の結果、352、337、201、558bpのT-RFはそれぞれ、Propioniferax sp.、Hyphomicrobium sp.、Pseudomonas sp.、およびPseudomonas stutzeriと同定された。
以上の結果より、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン共存下で、常に好気条件で培養した場合では、Propioniferax sp.がベンゼン分解、Hyphomicrobium sp.がジクロロメタン分解を担っていると示唆された。一方、嫌気条件と好気条件を繰り返して培養した場合では、Pseudomonas sp.がベンゼン分解、P. stutzeriがトルエン分解を行っていると推測された。常に好気条件下にある場合と酸素条件に変動がある場合とでは、異なる微生物が複合汚染の分解に寄与していると考えられた。