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海底堆積物中におけるCO2応答微生物の特定と挙動モデル化の試み
《背景》CO2の早期大量削減を目的として、分離回収したCO2を地下空間に貯留隔離するCCS技術が世界的に実用化され始めている。北米、中東および中国では枯渇油層を対象とした原油増進回収(EOR)を目的としたCO2-EORの実施が盛んであり、陸域にてCCSが展開されている。一方、北欧、英国等の欧州の一部では北海における海底下枯渇油ガス層を主な対象とし、海域にてCCSが展開されている。日本におけるCCSの実施は海底下帯水層を対象に考えられており、2016年4月より海域CCSの実証試験が始まっている。CCS実施の際には、事前に環境影響を予測・評価すること、継続的に環境影響の監視を行うことが求められている。海域における環境影響評価手段としては物理的、化学的、生物学的手法が考えられている。生物学的手法は環境影響の指標として活用が期待されており、漏出を想定したCO2放出実験によって海底堆積物中の微生物群集の応答性が調査されている(Tait et al. 2015)。《目的》海底下帯水層におけるCO2貯留の環境影響評価の一環として、漏出を想定した局所的CO2濃度上昇による海底堆積物中の微生物群集への影響を評価することを目的とした。海底堆積物を対象とした高濃度CO2曝露実験を実施し、CO2に応答する微生物種の特定を試み、さらにCO2濃度に応じた増減挙動のモデル化を試みた。《方法》沿岸海底モデルとして日本海域の沿岸域底泥を対象試料とし採取し、対照区(pCO2: 400μatm)および複数の高CO2海水区(1,000, 5,000, 10,000μatm)の曝露水槽に設置することで海底堆積物のCO2曝露実験を実施した。曝露試料を定期的にサンプリングし、微生物DNAを抽出し遺伝子解析を介して各試料中の微生物群集構造を比較した。CO2濃度に特異的に応答していると考えられる微生物種については、微生物反応シミュレーションを用いて増減挙動を予測した。《結果》CO2濃度上昇によって、微生物群集への大きな影響は観察されなかった。しかし、存在比の変動とCO2濃度の関係を精査することでCO2の曝露に応答すると推定される微生物を14種抽出することができた。それらのなかには、光合成細菌と硝化細菌が含まれていることが推定された。モデルケースとしてこれらの反応のモデル化を行ったところ、CO2濃度に応じた増減挙動を再現することができた。まだ精度は低い段階ではあるが、これらの結果を基にすればCO2濃度上昇による生物影響の指標化が可能になると考えられる。