P-017:
Lactobacillus plantarum環境単離株における莢膜合成量の変化に伴ったコロニー形態の相変異機構
○江橋 由夏1, 河嶋 伊都子1, 尾花 望1, 久保田 浩美2, 清川 達則1, 八城 勢造2, 永井 智2, 野村 暢彦1
1筑波大院・生命環境, 2花王・安全性科学研
乳酸菌の一種であるLactobacillus plantarumは、食品加工に利用される一方、食品変敗を引き起こす危害菌として報告されている。本菌を含め多くの微生物は実環境中でバイオフィルム(BF)を形成し集団で生息している。さらに本菌はBF形成により様々なストレスに対する耐性が上昇することが明らかとなっており、L. plantarumのBF状態における生態的知見が乳酸菌の制御に重要であるといえる。
先行研究において、実環境中から単離したL. plantarumでは、粘着性が低く広がりの小さいコロニー(Compact colony: Cc)と、粘着性の高いコロニー(Mucoid colony: Mc)が存在し、両者は相変異することが新規に明らかとなった。またCcとMcがそれぞれ形成するBFでは、その構造やストレスに対する感受性、基質への付着能が異なることが示された。さらにCcに比べMcでは莢膜の合成に関与するcps2オペロンの発現量が上昇しており、実際にMcで莢膜の合成量が増加していることが観察された。これより莢膜合成量の変化に伴う相変異がBFの構造や性質を変化させることが考えられた。そこで本研究ではL. plantarum環境単離株における莢膜合成の調節機構の解明を目的とし、乳酸菌BFの制御に繋がる知見を得ることとした。
まず初めに莢膜合成に関与しているcps2オペロンのORFとその上流配列をCcとMcで比較した。その結果cps2オペロン上流の一部配列に逆位が認められ、逆位配列中にσAプロモーター領域が推測された。また継代培養を経て得られたCc、Mcにおいても同位置に配列逆位が確認され、部位特異的な配列逆位に伴った相変異が示された。さらにCc、McのBFと浮遊状態において、CcからMcが出現する頻度及びMcからCcが出現する頻度を比較した。その結果、浮遊状態に比べBF中においてCcの出現頻度が上昇することが明らかとなり、BF形成が配列逆位の調節に関与していると推測された。
本実験では単離したCcとMcを用いたが、実環境中のBFではひとつの集団内にCcとMcが混在していると考えられる。このヘテロなBFの生態的意義として、L. plantarumの集団的生存戦略が示唆される。異なる性質を持つ菌体が同一集団中に同時に存在することで、様々なストレス存在下での集団の全滅を防いでいると考えられる。さらに相変異によりBF中に常に両者を保持することで、環境適応を図っていると推測される。