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ウェルシュ菌におけるバイオフィルム細胞集団の不均一性
実環境中において多くの微生物は自身が生産する細胞外マトリクスに覆われたバイオフィルムを形成して生息している。グラム陽性偏性嫌気性細菌であるウェルシュ菌では外界の温度に応答してバイオフィルムの形態が変化する。37°CではIV型線毛の発現が上昇し、基質に付着したバイオフィルムを形成する一方、25°Cでは繊維状細胞外マトリクスが産生され、耐性の向上したペリクル状バイオフィルムを形成する(Obana et al., 2014, J. Bacteriol.)。今回、我々は繊維状バイオフィルムマトリクスがsipWオペロン (sipW-bsaABCRSD) より産生されることを同定した。蛍光レポーター株を用いてsipW遺伝子発現を解析したところ、集団中においてsipW発現細胞と非発現細胞が混在する双安定な発現パターンを示した。また、集団中に占めるsipW発現亜集団は37°Cより低い温度で出現し、その細胞数は温度の低下に従って増加した。一方sipWオペロン内に存在するbsaRS二成分制御系欠損株ではsipW発現が消失したことから、BsaRSによる自己調節機構が双安定な発現パターンに必須であると考えられた。さらに宿主細胞への付着に関与するIV型線毛(pilA2)の欠損株ではほぼすべての細胞においてsipW発現が認められた。以上のことより、細胞集団の不均一性の制御は、ウェルシュ菌において環境(宿主内もしくは外)に応じた生活様式(付着、もしくはバイオフィルムマトリクス産生によるストレス防御)の決定を担っていると考えられる。