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演題詳細

P-094:
真核生物ラビリンチュラ類による珪藻からの栄養摂取
○浜本 洋子1,2, 本多 大輔2,3 1甲南大・院・自然科学, 2甲南大・総合ニューロ研, 3甲南大・理工・生物 d1622001@s.konan-u.ac.jp
ラビリンチュラ類は,世界中の海洋に広く生息している従属栄養性の直径10 μm程度の単細胞真核生物であり,セルラーゼなどの難分解性有機物に対する分解酵素を分泌することから,生態系における分解者として認識されてきた。実際に河口域などではバクテリアの1.6%の炭素量バイオマスとして豊富に存在することが示され,陸源有機物や植物プランクトンの死骸などのデトライタスを栄養源としていることが推察されている。しかしながら,河川の影響をほとんど受けない海域にも存在していることから,重要な一次生産者である珪藻に着目し,ラビリンチュラ類の沿岸域の環境中での栄養摂取について検討を行った。まず,系統的に多様なラビリンチュラ類と,世界中で観察される珪藻であるSkeletonema の二員培養を行った。その結果,すべてのラビリンチュラ類が,珪藻が死滅していない段階から増殖し,特にAplanochytrium 属では,他の系統群と比較して顕著な細胞数の増加が確認された。また,Aplanochytrium 属が,Skeletonema の細胞に仮足状の外質ネットと呼ばれる構造を付着させた時に,急速にSkeletonema の葉緑体の色や形態が変化する様子が観察された。すなわち,死滅した珪藻を分解する場合にはバクテリアなどと競合するが,Aplanochytrium 属は細胞状態が良好な珪藻からも,直接に栄養摂取できること,また,空間に放射状に展開する直径100 μm以上の外質ネットを用いることで,細胞周辺のより広い範囲の珪藻を栄養摂取の対象にできることが示唆された。Aplanochytrium 属は,一般的な有機物の培地ではあまり増殖しないため,これまでは特に注目されてこなかった。しかしながら,世界中の海洋の18S rDNA調査を行ったTara Oceansのデータを解析したところ,ラビリンチュラ類の中での配列数の比率は上位となることが多く,環境中ではラビリンチュラ類の主要群となっていると考えられた。さらに,Damare & Raghukumar (2010: MEPS 399: 53-68)は, in situ ハイブリダイゼーション法によって,Aplanochytrium 属が,ペルシャ湾のヤムシ類の腸管などにも存在することを示している。これらのことから,Aplanochytrium 属を中心とするラビリンチュラ類が,一次生産者から動物プランクトンへの新たに認識される着目すべきエネルギー転送経路をつないでいることが推察された。
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