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培養条件によるラビリンチュラ類が分泌するセルラーゼ活性と外質ネットの形態の違い
ラビリンチュラ類は海洋に普遍的に存在し,陸域の菌類に相当する海洋における真核生物の分解者である可能性が示唆されている。ラビリンチュラ類は仮足状の外質ネットで基質に付着し,セルラーゼなどの分解酵素を分泌することで,生育環境中の有機物を分解吸収して栄養摂取を行っていると考えられている。一方,外質ネットの微細形態は,ラビリンチュラ類に特徴的な形態であるボスロソームを介して細胞体と隔てられ,ネット内部にはタンパク質の合成の場となるリボソームがないなど,他の生物の仮足と比べて非常にユニークである。そこで,外質ネットでの分解酵素分泌機構の解明をめざし,これまでに明らかにした外質ネットに存在するアクチンに着目して,本研究では,培養条件によって異なるセルラーゼ活性状態となった時の,外質ネットの形態とアクチンとの関係性について観察を行った。
Schizochytrium aggregatum を異なる基質の含まれた培地で培養し,セルラーゼ活性をCMCとコンゴレッド染色による検出法によって測定した。その結果,生育する培地によって,同じ株でもセルラーゼの活性状態には差があり,細胞の個体数の多い培地,あるいは海藻や海草類と培養した際に高い活性を示した。そこで,これらの培地でのセルラーゼ分泌の経時的な活性の変化を測定すると,海藻や海草類では,培養初期から高いセルラーゼ活性を示すことが明らかになり,細胞は特定の基質を認識し,セルラーゼの分泌を活性化している可能性が考えられた。同時に,異なる活性状態での外質ネットの形態にも差が観察され,特に,基質に付着している外質ネットでは,太い外質ネットと,強いアクチンの局在が観察された。また,蛍光グルコースとの培養実験から外質ネットから栄養源であるグルコースを吸収することが可能であることを見いだし,特に基質存在下ではグルコースの取り込みが活発になることが分かった。これらの結果から,外質ネットは,分解酵素の分泌だけでなく,状況に応じて基質の認識や,栄養の吸収といった様々な機能を持つ可能性が考えられ,そうした様々な機能の変換に伴い,外質ネットの形態も変化していると考えられた。