P-101:
多摩川上流の河床礫上バイオフィルムに優占する好気性光合成細菌
【目的】好気性光合成細菌は酸素を発生しない光合成細菌の仲間で、好気条件でのみ増殖及びバクテリオクロロフィル合成を行う細菌のグループである。我々はこれまでの研究で、多摩川上流の河床礫バイオフィルムに系統的に多様な好気性光合成細菌が分布していることを培養法で示してきた。本発表では、河床礫バイオフィルム中に優占する好気性光合成細菌を16S rRNA遺伝子アンプリコン解析から推測したので報告する。
【方法・結果】河床礫バイオフィルムを採取し、DNAを抽出した。illumina社のプロトコルに従い16S rRNA遺伝子のV3-V4領域をPCR増幅し、MiSeqにより配列決定した。低品質配列及びキメラ配列を除去後、Local BLASTを用いてデータ解析した。2012年7月に採取した試料から65253リードの配列が得られ、その中から既報の好気性光合成細菌の配列を検索したところ、Tabrizicola aquaticaに近縁な単離株W19と100%一致する配列が10059リード(15.4%)を占めることがわかった。本株およびその類縁株は、我々のグループによって、これまでに同地点の河床礫バイオフィルムから分離されており、好気条件でバクテリオクロロフィルを生産すること、嫌気条件で生育しないことを確認している。本菌の近縁種はT. aquatica(16S rRNA 遺伝子塩基配列類似度98.8%)であるが、T. aquaticaはバクテリオクロロフィル生産能のない非光合成細菌であり、W19株はAlphaproteobacteriaのRhodobacteraceae科に属する新規好気性光合成細菌と考えられている。この株は富栄養培地では増殖せず、貧栄養培地 (有機物量が1L中に0.5g) でのみ増殖する特徴を有していた。
さらに、同地点において採取した別の河床礫バイオフィルムについても同様に解析したところ、好気性光合成細菌のなかでは本菌が最も多く、5-8万リードのうち0.6-2.5%を占めていた。
【結論】好気性光合成細菌は水圏に広く、ある程度の存在比で分布することが知られている。南太平洋の水深100mで細菌の24%、9月のスペインの河川水で14%、夏の高山湖の湖水でバイオマスの50%以上という高い報告もあるが、河床バイオフィルムにおける優占度及び優占する好気性光合成細菌の報告はなかった。本研究で上流河川の河床礫バイオフィルムにおいて低栄養性の新規好気性光合成細菌が多く分布することが示された。また本菌が15%を超えて検出されたことは、同環境での生態的な重要性を示唆している。