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深海底熱水活動域から分離した新規イプシロンプロテオバクテリアの生理生態学的性状
○永田 亮佑1, 高木 善弘2, 多米 晃裕2,3, 布浦 拓郎2, 力石 嘉人2, 武藤 久1, 美野 さやか4, 澤山 茂樹1, 高井 研2, 中川 聡1,2
1京都大・院農, 2JAMSTEC, 3(株)マリン・ワーク・ジャパン, 4北海道大・院水産
深海底熱水活動域は、生物の少ない暗黒の極限環境である深海において、例外的に豊富に生物が見られる場所の一つである。現場生態系の1次生産者となっているのが化学合成独立栄養細菌である。彼らは熱水中に含まれる化学物質からエネルギーを取り出して、二酸化炭素を有機物へと変換する。特に、深海底熱水活動域において優占する化学合成独立栄養細菌としてイプシロンプロテオバクテリアが知られており、その生理・生態を解明することは深海底熱水活動域の生態系を理解する上で重要である。そこで本研究では、深海底熱水活動域から新規イプシロンバクテリアを分離し、その生理生態学的性状を明らかにすることを目的とした。 2015年7月29日から8月6日の国立研究開発法人海洋研究開発機構の調査航海で、中部沖縄トラフの野甫サイトにおいて採取したチムニーサンプルから、限界希釈法を用いて55°Cで増殖する嫌気性の桿菌を分離した。培地には電子供与体として水素を、電子受容体として元素状硫黄を用い、気相を水素:二酸化炭素=4:1の混合気体とした。分離された嫌気性桿菌は、次世代シーケンサーによる全ゲノム解析によってイプシロンプロテオバクテリアのNautiliales目に属し、その16S rRNA遺伝子の塩基配列から少なくとも種レベルの新規性を有することが示唆された。全ゲノムに加え、本分離株の増殖におよぼす温度・塩分濃度・pHの影響や、利用可能な炭素源、窒素源、電子供与体・受容体などの生理学的知見、脂肪酸解析などの化学分類学的特徴について報告する。