P-112:
深海性メタン酸化細菌のバイオフィルムにおける遺伝子発現
【目的】海洋におけるメタン酸化細群は、その炭素循環において重要な役割をなすと言われている。しかしながら、分子生物学的手法でのみでその存在、多様性が示唆されているが、分離培養された例は少ない。未培養ながら深海のメタン酸化細菌を代表する株は、イガイ科二枚貝シンカイヒバリガイ類の共生細菌と単系統のクラスターを形成する。本研究は、深海由来のメタン酸化細菌の分離培養を目指し、従来のバッチ培養ではなく、生息域に近い環境を再現できるリアクター培養法による分離培養を試みた。このリアクター培養法は、従来法では培養が非常に困難であったメタン生成アーキアをはじめとする多種多様な嫌気性の難培養性微生物の分離・培養に成功した技術である。【方法】リアクター培養法では、担持体として不織布を使い、連続的にメタン、アンモニアを唯一の栄養源として流入させる装置を使った。この装置を使い、深海から採集したシンカイヒバリガイの鰓組織周辺からの試料を接種し、約3ヶ月間、培養を行った。バイオフィルムを構成する微生物に対して、16SリボソームRNA遺伝子のクローン解析、メタゲノミクス解析、メタトランスクリプトーム解析を実施した。【結果】リアクター培養装置の担持体には、バイオフィルムが形成され、16SリボソームRNA遺伝子のクローン解析から、このバイオフィルムには、メタン酸化細菌が全体の20%~30%を占め、他にAlphaproteobacteria、Plactonomycesに属する未知系統群の微生物が優先していることが判明した。集積培養されたメタン酸化細菌は、シンカイヒバリガイに共生するメタン酸化細菌と近縁種(16Sリボソーマル遺伝子 97%相同性)であり、他のシンカイヒバリガイ類のメタン酸化共生細菌とクラスターを形成した。【考察】リアクター培養法は、連続系であるので従来の培養法に比べ、より自然環境を再現できる方法であると考えられ、難培養性微生物の分離培養を可能にする方法であることが示された。また、集積に成功したメタン酸化細菌は、16SリボソームRNA遺伝子にもとづくと共生細菌と同一クラスターを形成することから、共生細菌との比較実験における自由生活型の対照微生物として、今後の共生細菌の研究を進めるに当り好材料となるはずである。