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演題詳細

P-121:
雨水細菌叢の季節性変動解析から明らかにする大気中の微生物長距離移動
○平岡 聡史1, 宮原 雅也1, 藤井 和史1, 町山 (菊地) 麻子2, 岩崎 渉 1,2,3 1東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻, 2東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻, 3東京大学大気海洋研究所 hiraoka@cb.k.u-tokyo.ac.jp
土壌や海洋に生息する微生物は、土煙や波飛沫によって大気中に巻き上げられ、高度0-11kmの対流圏を風によって流され、雨や重力によって地上に落下することで、海や大陸を越えて数千kmもの長距離を移動し得ると考えられている。大気中の微生物に関する研究は古くから行われており、植物やヒトの病原菌が長距離を伝搬する可能性が示唆されている他、比較的高温で大気中の水蒸気を氷結させる機能を持つINA微生物も大気中から検出されており、雲の生成や降雨の発生に微生物が関与していると考えられている。このような微生物の長距離移動や病原菌の拡散、天候へ与える影響を解明する上で、雨水中の微生物の観測は重要である。実際に既存の培養ベースの研究では、雨水からも病原菌やINA微生物が検出されており、また多くの雨水微生物は海洋や土壌に由来することが示唆されている。一方で、非培養ベースの手法を用いた難培養性微生物を含む網羅的な細菌叢解析は、雨水中の微生物密度の低さや滅菌環境下での定常的なサンプリングの困難さのため、長期間に渡る観測は行われておらず、雨水微生物の由来環境や天候との関係は十分に分かっていなかった。本研究では、低微生物密度サンプルの解析実験手法の確立と1年以上に渡る雨水回収を行い、気象データとの統合的な解析から、雨水細菌叢の多様性や気象条件との関係性、及び微生物の由来環境の推定を行った。
雨水サンプルは2014年5月-2015年10月にかけて千葉県柏市及び東京都文京区の2箇所で回収し、計26サンプルを対象に16S rRNA遺伝子のV5-V6領域の増幅とシーケンスを行った。また、気温、風速、雨量等の気象データと、HYSPLITモデルによる降雨開始直前240時間の大気移動軌跡データを利用し、細菌叢との関係性を解析した。
雨水からはProteobacteriaやFirmicutes、Bacteroidetes、Actinobacteriaが検出され、複数の病原菌やINA微生物を含む属も検出された。高度2000 mの上空大気の移動経路と細菌叢の関係性を解析したところ、夏季に太平洋側から大気がもたらされた際は冬季に大陸側から大気が移動してくる場合に比べてProteobacteriaの相対存在量が有意に高く、海洋由来の細菌がより多いことが示唆された。また気象条件と細菌叢の相関分析からBacteroidalesの相対存在量が地上気温と有意に逆相関することが示された。経年的なサンプリングから、気象条件に依存して雨水細菌叢が変化していることを示す。
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