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硫黄添加堆肥におけるpH低下およびアンモニア揮散抑制に寄与する硫黄酸化細菌の生態
○森 裕美, 多田 千佳, 福田 康弘, 中井 裕
東北大・院農
家畜ふんの堆肥化過程におけるアンモニア揮散は、悪臭や酸性雨をはじめとする環境問題や、完成堆肥の窒素含量の低下の原因となる。堆肥に元素硫黄を添加して堆肥化を行うと、堆肥中の硫酸濃度が上昇し、pHが低下して、その結果、アンモニウムイオン濃度が上昇すると報告されている。本反応には、堆肥中の硫黄酸化細菌が重要な役割を果たしていると推測されている。そこで、本研究では、硫黄添加堆肥を作成し、アンモニア揮散抑制効果を確認するとともに、アンモニア揮散抑制に貢献している硫黄酸化細菌の生態を明らかにすることを目的とした。牛ふんに乾燥重量の0.25%の硫黄を添加して堆肥化した硫黄添加堆肥と、硫黄を添加しない非添加堆肥を作成した。堆肥化1ヶ月までは、毎日6時間の堆肥下部から強制通気と、3-4日ごとに切り返しによる撹拌を行った。堆肥化1ヶ月以降は14日ごとに切り返しによる攪拌を行った。撹拌直前に、深さ30cmからサンプルを採取し、pH、アンモニウムイオン濃度、硫酸イオン濃度、アンモニアガス揮散量を測定した。堆肥化開始時および堆肥化14日目と58日目に採取したサンプルにチオ硫酸ナトリウムを添加し、現場温度条件を再現して一定時間培養し、硫酸産生量を測定することにより、硫黄酸化能力を評価した。また、凍結乾燥した堆肥サンプルからDNAを抽出し、硫黄酸化酵素をコードするsoxB遺伝子を標的としたreal-time PCR法で、硫黄酸化細菌の現存量を調査した。硫黄添加堆肥において、堆肥化14日目以降で硫酸の蓄積、堆肥化58日目でpHとアンモニアガス揮散量の低下が確認された。これらの反応は、既往の研究より時間を要したが、同様の傾向を示した。硫黄非添加堆肥では、硫黄酸化細菌の現存量は、特に堆肥化開始時から14日目にかけて減少し、それに伴い、堆肥の硫黄酸化能力も低下した。一方、硫黄添加堆肥では、堆肥化14日目までの硫黄酸化細菌の現存量の減少は抑えられ、堆肥の硫黄酸化能力も堆肥化初期と同等の値を維持した。本研究によって、硫黄添加法は、堆肥中の硫黄酸化細菌数の減少を抑制し、堆肥の硫黄酸化能力を高めることで、アンモニア揮散を抑制していることが直接的に示された。今後、両堆肥中の硫黄酸化細菌の群集組成を比較し、アンモニア揮散抑制に貢献する本細菌群の生態を明らかにする予定である。