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演題詳細

P-163:
IODP 東北地方太平洋沖地震調査掘削(JFAST)で得られたコア試料の微生物解析
○酒井 早苗, 平井 美穂, 田角 栄二, 布浦 拓郎, 高井 研 海洋研究開発機構
 東北地方太平洋沖地震および巨大津波を引き起こした原因を解明するため、統合国際深海掘削計画 (IODP) 第343次研究航海 「東北地方太平洋沖地震調査掘削 (Japan Trench Fast Drilling Project: JFAST)」 が実施され、東北地震時の断層すべり量が最も大きいと考えられた宮城沖日本海溝プレート境界断層浅部の掘削調査が地球深部掘削船 「ちきゅう」 を用いて行われた。本掘削では東北地震本震の震央から東南東約93 kmの海域に掘削地点が設けられ、実施目的の異なる3孔の掘削が水平距離30 mの範囲内において行われた。その結果、海洋科学掘削における海面下コア試料取得深度 (海面下7,734 m) の世界記録を樹立した他、プレート境界断層の構造や断層物質を用いた摩擦特性の調査、また孔内に温度計を設置し孔内温度を長期観測することによって断層残留摩擦熱を測定するなど様々な研究成果が得られている。 本研究では、C0019E 孔より掘削されたコア試料の微生物学的特徴を明らかにするため、コア試料(海底下約180 m ~830 mのサンプル)を用いた微生物培養実験、放射性同位体を用いた活性測定、微生物群衆構造解析等を行った。その結果、海底下約830 mまで微生物細胞が、海底下約810 mまでは微生物活性も検出された。なかでも、海底下約700 m、720 m および 810 mのサンプルでは水素からの酢酸生成活性、海底下約800 mのサンプルではメチルアミンからのメタン生成活性が検出され、この結果は現場の水素濃度およびメタン濃度の増大との関連性が見られた。加えて、微生物活性が確認されたサンプルを用いた培養実験においては嫌気性酢酸生成菌である Acetobacterium sp.、メチルアミンからメタン生成を行うメタン生成古細菌 Methanolobus sp. が培養されたことから、現場環境での酢酸生成およびメタン生成が強く示唆された。これらの海底下微生物群集は、東北地震のプレート境界断層の滑りではなく、より深部の震源域付近での岩石破壊によって生成し、地殻浅部に断層に沿って移動した水素によって活性化された地震生命圏である可能性も考えられる。
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