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深海底での微生物現場培養実験から紐解く鉄を基盤とした海底下微生物圏: 放射光源X線分析法を駆使した微生物による地殻内エネルギー獲得戦略の解明
○大橋 優莉1, 光延 聖2, 坂田 昌弘1, 鈴木 優美3, 牧田 寛子4, 野崎 達生4, 川口 慎介4
1静県大・院環境, 2愛媛大, 3神奈川工大院, 4JAMSTEC
これまで生命活動が存在しないと考えられていた海底下に、多種多様な微生物が存在していることが最近の研究によって明らかとなってきた。特に、地球表面積の約70%を占める海底下の岩石圏に広大な地下生命圏が広がっている可能性が指摘され、地球生命科学に大きなパラダイムシフトが起こりつつある。岩石圏の生態系の一次生産者の微生物群がエネルギー獲得に用いる反応の1つとして、海洋地殻を構成する玄武岩やパイライトに含まれる2価鉄酸化反応がある。しかし、微生物による2価鉄酸化の反応機構には不明な点が多く、その理由は以下の3点に集約される。(1) 海洋微生物の99%以上は難培養性で、海洋性鉄酸化微生物も殆ど単離されていない。(2) 海底岩石圏と実験室レベルでの培養/実験条件にバイアスが生じやすい。(3) 採取した岩石試料は、現在だけでなく過去の風化イベント情報も含んでおり、現在の微生物相情報と岩石の酸化反応とを安易に関連付けられない。これらを考慮すると、海底下岩石圏生態系の理解には、実環境に近い条件で、一定期間、どのように微生物学的な鉄酸化が起きるのかを調べる必要がある。本研究では、深海底にて、2価鉄を含む固体基質であるパイライトを用いた微生物の現場培養実験を実施し、鉄酸化微生物の生態および生物的な鉄酸化プロセスを調べることを試みた。2014年4月JAMSTEC研究航海において、パイライトの粉末/薄片試料を伊豆小笠原弧ベヨネース海丘海底の熱水域/非熱水域に設置した。設置の8ヶ月後および12ヶ月後に培養装置の回収航海を実施した。回収したパイライト試料の表面には、バクテリア、アーキアを含む多くの微生物および変質物が観察された。微生物相の16S rRNA解析の結果、パイライトサンプルでは培養実施周辺海域の堆積物と検出微生物種が大きく異なっていた。X線吸収微細構造(XAFS)法分析の結果、変質物には水酸化鉄鉱物であるフェリハイドライト、シュベルトマナイトが主要鉱物として観察され、基質表面は、周辺海水に比べ低pH環境であることが推察された。さらに走査型透過X線顕微鏡(STXM)を用いて、微生物-パイライト付着面の化学種分析をナノスケールで行った結果、微生物が金属錯生成能を有する細胞外有機物を鉱物表面で産生し基質の溶解を促進していること、また、水酸化鉄鉱物を50-100 nm程度の粒径を有するクラスター状にして細胞外へ排出していることが明らかとなった。