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現場培養による深海性鉄利用微生物の解明
○鈴木 優美1,2, 牧田 寛子2, 光延 聖3, 大橋 優莉4
1神奈工大・院工, 2JAMSTEC, 3愛媛大・農, 4静岡県大・院薬食
鉄は、海底地殻を構成するバサルト(玄武岩)に含まれる金属のうち、アルミニウムに次いで含有量が多く、地球上に多量に存在する金属元素である。また、多くの生物にとって必須元素であり、利用されやすいことから、有機物が乏しく光の届かない深海環境では、微生物にとって主要なエネルギー源の一つと考えられる。これまでに鉄をエネルギー源とする微生物の存在は明らかとなっているが,その生態や生化学的性状が明確になった深海性鉄利用微生物はごく僅かである。本研究では、深海底にて鉄鉱物の現場培養実験を行い、一定期間後に回収した鉄鉱物試料中の微生物叢を分子生物学的手法にて解析することで、深海環境における鉄鉱物中の固体状の鉄をエネルギー源として利用する微生物種を明らかにすることを目的とした。鉄鉱物試料として、深海環境に豊富に存在するパイライト(FeS2)を使用した。パイライトの粉末を孔径40 μmのフィルターで包み、現場培養装置に取り付け、小笠原弧ベヨネース海丘の熱水活動域、非熱水域にそれぞれ設置した。8ヶ月および12ヶ月間現場培養後、回収した鉄鉱物試料からDNAを抽出し、分子生物学的手法を用いて微生物叢の解析を行った。また、現場培養実施地点周辺の海底堆積物に対しても同様の解析を行った。さらに、実験室にて現場培養地点の海底堆積物を植種源とし、パイライトをエネルギー源とした培養実験を実施した。パイライト試料の微生物群集構造解析の結果、優占して検出された微生物のうち、Magnetospirillumの近縁種が鉄を利用できることが分かった。この微生物は磁性細菌であり、体内に磁石を生成する際体外から鉄を取り入れることが知られている。この種以外にも磁性細菌が数種検出されており、これらが深海底でパイライト中の固体状の鉄を利用していると考えられた。検出された微生物叢は堆積物とパイライト試料とでは大きく異なっており、パイライトを利用する微生物を選択的に検出できたと考えられた。なおパイライト試料から検出された微生物由来の16S rRNA遺伝子の殆どが、既知の微生物との相同性が90%程度と低く、新種の微生物である可能性が示唆された。実験室での培養実験の結果からは、エネルギー源としてパイライトを利用した微生物の増殖が観察された。本発表では、現場環境および実験室内での培養実験によって得られた、深海環境に生息する鉄利用微生物の新しい知見について報告する。