Imgheader01

第31回大会ホームページへ

演題詳細

P-170:
土壌環境のヒ素挙動に関与する微生物群集機能の解明
○濱村 奈津子1, 片岡 剛文2 1九州大・院理, 2福井県大・海洋資源 nhamascb@kyushu-u.org
猛毒のヒ素は、鉱山開発など人為的な汚染源の他に、鉱物や掘削ずりからの溶出など自然汚染源からも環境中に放出され、現在、世界でもっとも深刻な汚染物質の一つである。亜ヒ酸(AsIII)はヒ酸(AsV)と比べ土壌中での移動性および生体毒性が高いため、反応速度の高い微生物代謝によるヒ素の形態変化は、環境挙動に影響し汚染リスクを悪化させる要因と考えられている。実際の汚染土壌でヒ素は他の重金属等と混在することが多いが、複合汚染環境における微生物群集の代謝機能やヒ素動態を明らかにした総合的な研究は極めて稀少である。そこで本研究では、汚染土壌カラムを用いて、ヒ素と同族毒性元素アンチモンの複合曝露がヒ素形態変化に及ぼす影響を明らかにするとともに、土壌微生物群集における遺伝子発現応答の推移をメタトランスクリプトームで網羅的に解析し、ヒ素挙動に関与する機能発現の定性定量的検出を試みた。AsIII(0.2 mM)添加後の土壌カラムではAsIII酸化能が上昇し7日後には100%に達したが、その後3価アンチモン(SbIII)を複合曝露した系では、AsIII酸化能が40%以下に減少した。メタトランスクリプトーム解析では、rRNA配列に基づく群集組成がSbIII複合暴露後に大きく推移するのに対し、機能遺伝子群の発現パターンは暴露直後には特異的な応答を示すが、その後SbIII非添加の系と類似した発現パターンが見られた。さらに、qRT-PCRによるヒ素酸化酵素遺伝子(aioA)の定量解析およびヒ素代謝細菌の分離培養の結果から、SbIII複合曝露直後には存在する微生物群による応答反応が見られ、その後複合曝露の系ではSbIIIに耐性を示すがヒ素代謝活性速度の異なるヒ素酸化細菌が出現したため、全体でのAsIII酸化能が減少したと考えられた。以上より、多種多様な微生物が混在する複雑系においては、環境変化への応答や代謝特性の異なる菌叢への推移も考慮した、より詳細な遺伝子型に特異的な定量的発現診断に基づく微生物群集全体のヒ素代謝活性変動を予測する必要性が示唆された。
PDF