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演題詳細

P-206:
Burkholderia細菌の昆虫腸内への適応機構の解明
○大林 翼1, Mergaert Peter2, 二橋 亮3, 寺島 美亜4, 孟 憲英3, 三谷 恭雄3, 曾根 輝雄1, 菊池 義智1,3 1北大・農, 2フランス・CNRS, 3産総研・生物プロセス, 4北大・低温研 tsubasa-oobayashi@aist.go.jp
多くの動植物は周囲の環境中から特定の共生細菌を獲得しているが、宿主体内には病原菌を排除するために多くのストレスが存在することが知られている。それら共生細菌が宿主に感染・定着するためには宿主のストレス環境に適応しなければならず、その結果として細菌の形態や代謝生理が劇的に変化することが知られている。ホソヘリカメムシはダイズの重要害虫で、幼虫時に土壌中からBurkholderia属の細菌を特異的に獲得することが知られている。Burkholderia細菌はカメムシ中腸の後端部に発達する盲のうと呼ばれる無数の袋状組織の内腔中に定着している。これまでの研究で、Burkholderia細菌はカメムシ腸内共生時に細胞膜のLPS構造を変化させることやポリエステルを細胞内に蓄積することが分かっているが、これまでに得られた知見はいずれも特定の機能に着目した断片的なものばかりであった。そこで今回、我々はBurkholderia細菌の昆虫腸内への適応機構を徹底的に理解するため、試験管培養時と昆虫腸内共生時の2種類の細菌を用意し、RNA-seq解析や顕微鏡観察などを行い、代謝制御系や細胞形態に関する変化を網羅的に調べた。その結果、腸内共生時のBurkholderia細菌では複数の代謝制御経路が亢進していた一方、走化性やべん毛運動性に関与する制御系は抑制されていることが明らかになった。亢進していた代謝経路の中には、アラントイン分解経路、抗菌ペプチド耐性機構、および細胞分裂関連遺伝子などが含まれた。カメムシの盲のう部では多数の抗菌ペプチドが発現していることやアラントインは昆虫の主要な窒素老廃物であることから、共生細菌が腸内環境に存在するストレスに適応すると同時に宿主の老廃物をうまく利用して生育していることが示唆された。次に、顕微鏡観察およびフローサイトメトリーにより、共生時におけるBurkholderia細菌はその細胞形態が桿菌から球菌に変化し、1細胞当たりのDNA量が減少していることが確認された。さらに、腸内環境を想定した酸化ストレス、界面活性剤ストレス、細胞毒性ストレスに対する耐性能を調査したところ、腸内共生時の細菌は培養時のものと比べてこれらのストレスに対する感受性が増加していることが明らかになった。本発表では、得られた代謝変化と形態生理変化の結果を統合し、どのようにしてBurkholderia細菌が昆虫腸内に適応し生育しているのかについて総合的に議論する。
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