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Pseudomonas syringae pv. tabaci病原力関連遺伝子の網羅的解析と感染機構の可視化
世界の作物生産を100%に例えると、30%が雑草、虫害、病害により失われている。その半分の約15%(8億人分の食料と試算)が植物病害に起因している。今後、安定的な食糧生産を得るために病害による損失を抑える必要があり、植物‐微生物間相互作用の解明が求められる。感染は病原菌が植物に付着・侵入して、両者の間に栄養授受関係が成立することによって成立する。これまでの研究において、病原菌の植物葉表面での感染メカニズムは付着・侵入・攻撃・増殖の順序で植物宿主に対する感染を成立させると考えられてきた。しかし、実際の感染現場においてそのような感染過程の詳細な観察はなされていない。例えば、病原細菌の植物への付着に重要だと考えられるBiofilm形成や植物体侵入時の運動性と、病原力との関わりも未だによくわかっていない。そこで、本研究では植物病原細菌の病原性機構を一細胞レベルでの微生物生態学的研究によって明らかにすることを目指した。まず、病原細菌各感染過程に関与する遺伝子を探索するため、病原力が低下するP. syringae pv. tabaciの遺伝子変異株ライブラリーを用いた。各変異株において、植物葉上での挙動に重要であると考えられる表現型(運動性およびBiofilm形成など)を網羅的に解析した。さらに、当研究室ではCOCRM (Continuous Optimizing Confocal Reflection Microscopy)法と蛍光検出法を組み合わせることによって、植物葉構造と一細胞レベルの微生物を同時にリアルタイムで観察することに成功している。現在、上記の網羅的解析によって選抜された病原性関連遺伝子欠損株にGFPを挿入した株を新たに作成し、タバコ植物Nicotiana benthamianaに付着させ、上記のリアルタイムイメージング系を用いて葉上での感染過程における細菌の挙動と局在を観察している。このように、各種病原力遺伝子欠損により付着・侵入・攻撃・増殖と続く感染行動がどう変化するのか、その結果としてどう病原性機構に影響してくるのかを明らかにし、植物-微生物間相互作用の実態に迫ることを本研究の目的とした。