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演題詳細

P-234:
超好熱古細菌Aeropyrum pernixに感染する新規溶原化ウイルスの増殖様式に関する一考察
○弓矢 真穂, 藤原 慎, 吉田 天士, 左子 芳彦 京都大・院農
【背景】超好熱古細菌Aeropyrum属ではゲノムシンテニーが高度に保存されているが、シンテニーの崩壊がウイルス関連遺伝子に認められ、ウイルス駆動のゲノム多様化が引き起こされていると示唆された。本属とウイルスの多様な相互作用を詳細に探るべく、本研究では本属感染性ウイルスを分離し、その特徴付けを試みた。【方法】鹿児島県山川熱水環境より採取した砂をJXTm培地に添加し、90°CでA. pernixを集積培養した。本種の増殖を確認した後、PEG沈殿法で濃縮した環境ウイルスをバッファー(20 mM Tris-acetate pH7.0)に懸濁した。同環境より分離した本種を宿主として、環境ウイルス接種区、バッファー添加区と無添加区の各系を培養し、ウイルス画分を調製して透過型電子顕微鏡で観察した。バッファー添加区から精製したウイルスと宿主からDNAを抽出し、MiSeqでゲノム解析を行った。定量的PCR法を用いて、バッファー添加区および無処理区における宿主細胞内/上清中のウイルスゲノムコピー数の経時変化を調べた。培養液の吸光度を測定することで、バッファー添加区、本ウイルス接種区と無添加区における宿主の増殖を比較した。【結果】環境ウイルス接種区とバッファー添加区のみで直径60nmの球状ウイルス様粒子が観察されたため、バッファーによって宿主と共存する溶原化ウイルスの複製が誘導されたと考えられた。用いた宿主のドラフトゲノム配列上には、本ウイルスゲノムと一致する領域は認められず、宿主ゲノムに対するウイルスゲノムコピー数は小さいと考えられた。バッファー添加後24時間以降にのみ、ウイルスゲノムは細胞内と培養上清に検出され、72時間後には宿主ゲノムコピー数より100倍以上高くなった。ウイルスの生活環として、溶原および溶菌サイクルが知られている。古細菌ウイルスは宿主染色体に溶原化する、または宿主を明確に溶菌せず恒常的に増殖する(carrier state)例が多い。しかしながら本ウイルスは、非自律的な増幅を行うエピソームとして、培養液中のごく一部の宿主細胞内に存在し、誘導条件下においては急速に複製され、成熟したウイルスは細胞外へ放出されると考えられた。さらに、バッファー添加区では24時間以降に増殖阻害が認められたが、ウイルス画分添加区では8時間以降に、より著しい増殖阻害が認められた。このため、細胞外へ放出されたウイルスは周囲の細胞に感染すると示唆された。
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