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演題詳細

P-237:
長期調査による珪藻とそれに感染するウイルスの生態学的関係の解明
○木村 圭1, 外丸 裕司2 1佐賀大・低平沿岸セ, 2水産機構・瀬戸水研 kimurak@cc.saga-u.ac.jp
小型浮遊性珪藻Chaetoceros tenuissimusは,夏季を中心に沿岸域でブルームを形成する。これまでの研究から,複数のウイルスがC. tenuissimsuに感染することが分かっていた。また,室内培養実験を主体にした研究からは,ウイルス種変遷に影響する感染環境特性の違いが明らかになってきた。そこで本研究では,珪藻の挙動と水質や気象等の環境,そしてウイルス種との関係を,これまで以上に詳細かつ総合的に評価する事を目的に,これまでの5年に亘る現場定点調査の結果を精査した。本研究では,水産研究教育機構・瀬戸内海区水産研究所の桟橋において,2010年4月から2015年3月の5年間にわたって,最高週4回の頻度で調査を実施した。調査では,表層海水の水温・塩分濃度等の環境情報,栄養塩(DIN,PO4,SiO2)濃度に加え,珪藻C. tenuissimus現存量,ウイルス力価を測定した。調査期間を通して,毎年7~9月に必ずウイルスが検出された。また2種のウイルス(RNAウイルス,DNAウイルス)の内,7月には優占的にRNAウイルスが出現し,8月以降にはDNAウイルスが出現することが分かってきた。グラフに基づいた解析からRNA出現と海水の塩分低下が密接に関係している可能性が示唆された。RNAウイルス出現に次いで出現するDNAウイルスについても,グラフに基づいた解析を実施したところ,DNAウイルス出現時にも海水の塩分濃度が大きく低下していることが分かってきた。さらに,RNAウイルスはDNAウイルスに比べて低水温の初夏に出現しやすいことも分かった。培養実験によると,RNA/DNAの両ウイルスはそれぞれ感染至適環境が異なっており,各ウイルスが出現しやすい条件は温度等に依存することが予想されている。これらの結果を総合的に考察すると,RNA/DNAウイルスの出現時期は温度に依存するものの,ウイルス感染が広がるためには急激な塩分の低下が必要であることが示唆された。本研究により,5年に亘る沿岸現場調査とデータの精査により,沿岸生態系における「珪藻・ウイルス・自然環境」の関係の一端を明らかにすることができた。一方で,既知のウイルス種とは全く異なる新奇ウイルスの出現も確認されており,我々の想像以上に珪藻-ウイルスの関係が複雑である事が示唆されてきた。今後は,C. tenuissimusと既知のウイルスのみならず,珪藻とウイルスの群集レベルの関係を解明する研究によって,現場海域における両者間の生態学的関係を明らかにしたい。
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