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演題詳細

P-249:
一本鎖DNAウイルス群を標的とする定量的メタゲノミクス
○吉田 光宏1, 望月 智弘2, 浦山 俊一1, 吉田(高島) ゆかり1, 西 真郎1, 高木 善弘1, 布浦 拓郎1, 高井 研1 1海洋機構, 2東工大ELSI mityoshi@jamstec.go.jp
環境中のウイルスは、宿主バイオマスの動態制御や炭素循環の駆動、遺伝子水平伝播に関わる因子として、微生物生態系において重要な役割を担っている。海洋におけるウイルス群集は、単離ウイルスなどの知見から主に二本鎖DNAタイプで構成されると考えられている。その一方で、演者らは最近、深海堆積物表層部のウイルスメタゲノム調査から、取得した配列の多くが一本鎖DNAウイルスに由来することを見出している。しかしながら、phi29 DNAポリメラーゼを用いたウイルスメタゲノム試料の増幅過程において、環状の一本鎖DNAへの増幅バイアスが生じることから、得られた結果に対して一本鎖DNAウイルスの存在量を過大評価し、正確に定量できていない可能性が考えられる。そこでこの欠点を改善するため、一本鎖タイプと二本鎖タイプのウイルス群集を定量するための新たなメタゲノミクスアプローチを考案し、東北沖(500m以深)表層堆積物サンプルに対して本アプローチを実践した。サンプルから抽出したトータルウイルスDNAより、一本鎖DNAと二本鎖DNAを回収した後、それぞれメタゲノム解析を行った。その結果、一本鎖DNAウイルスメタゲノムにおいて一本鎖DNAウイルス(Microviridae科ファージやCircoviridae科ウイルスなど)が多くを占める一方、二本鎖DNAウイルスメタゲノムからは二本鎖DNAウイルス(おもにCaudovirales目に属する典型ファージ)が多くを占めることを確認した。このように、両者のメタゲノムは異なっており、それぞれのウイルス群集像を個別に明確化することが可能であった。次に、両タイプのウイルス核酸量を定量し、ウイルス1粒子に含まれるDNA量の情報をもとにウイルス量を算出した。二本鎖DNAウイルス量の値は、本タイプを主なターゲットとした直接計数の値とほぼ類似しており、妥当な結果が得られた。一本鎖DNAウイルス量については、これらの値をはるか上回る量が認められ、100倍から1000倍も多いことが判明した。以上、本アプローチを行うことにより、両群集のウイルス量と組成についてバイアスの影響を回避したデータの収集が可能となった。さらに、DNAウイルス群集内において99%以上もの数を占める一本鎖DNAウイルスの存在が明らかとなり、本ウイルスタイプが深海堆積物表層環境下で優占していることが強く示唆された。
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