Imgheader01

第31回大会ホームページへ

演題詳細

S5-3:
レジオネラの分泌装置とエフェクターから紐解く感染細胞内での卓越した宿主細胞最適化機構
○永井 宏樹 阪大・微研
レジオネラ(Legionella pneumophila)は、自然界の淡水・土壌環境中どこにでもいるありふれた細菌です。しかしながら、レジオネラに汚染された水滴(エアロゾルといいます)をヒトが吸入すると、肺の中で増殖し、治療をしなければ死に至るような重篤な肺炎を引きおこすことがあります(レジオネラ症)。レジオネラは自然界において自由生活性アメーバを自然宿主として、その中で増殖します。アカントアメーバ(Acanthamoeba)を始めする自由生活性アメーバもまた、自然界中どこにでもいるありふれた微生物です。レジオネラはこのような自由生活性アメーバとの相互作用の歴史の中で、アメーバ中で生存・増殖するためのメカニズムを獲得したと考えられます。レジオネラは研究室内で培養でき、遺伝子操作も容易です。20世紀の終わりまでに、病原性に必須なレジオネラ遺伝子の遺伝学的探索の結果、20-30のdot あるいはicmと名付けられた遺伝子群が同定されました。当初これらがなにをコードしているかは必ずしも明らかではなかったのですが、2000年に解明されたR64などのプラスミドの接合伝達系遺伝子群に近縁であることが判ってきました。現在では、プラスミド接合伝達系と起源をともにする生体高分子輸送系のことを総称してIV型分泌系(T4SS; the Type IV secretion system)と呼びます。さらにT4SSは、アグロバクテリウムのものに近縁な古典的なもの(IVA型分泌系; T4ASS)と、レジオネラのDot/Icm分泌系に近縁なもの(IVB型分泌系; T4BSS)に大別されます。驚くべきことに、レジオネラは宿主の如何によらず、Dot/Icm T4BSSを使って宿主真核細胞中に生存・増殖可能なニッチを構築します。レジオネラ目細菌群は、レジオネラ以外に人畜共通感染症Q熱の起因菌であるコクシエラや、植物害虫として知られているアブラムシの共生菌リケッチエラなどを含み、これらは全て細胞内寄生性の生活環を持ちます。系統解析の結果は、これらレジオネラ目細菌群の共通祖先がDot/Icm T4BSSを染色体上へ取り込み、以後垂直伝搬で維持されていることを示しています。現在、IV型分泌の研究は、構造生物学的知見がドライビングフォースとなり、急速に進展しつつあります私たちも、レジオネラのDot/Icm IVB型分泌系、およびそれに近縁なR64プラスミド接合伝達系に着目し、構造・機能解析を進めています。今回は、これまでに得られた成果を含めて議論したいと思います。
PDF