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多機能運動装置ハプトネマが示す新規微小管系屈曲運動のメカニズム
ハプト藻は主に海洋に生息する微細藻類であり、海洋生態系においては珪藻とともに一次生産者として重要な役割を果たしている。しかし、真核生物全体におけるハプト藻の系統的位置は、未だにはっきりとは分かっていない。ハプト藻は、遊泳のための2本の鞭毛以外に、「ハプトネマ」と呼ばれる微小管系の運動装置をもつことで特徴づけられる。ハプトネマは、基質への付着と滑走運動、餌の付着、凝集、取り込み、機械刺激の受容と逃避反応など、実に多彩な機能をもつことが知られている。構造的には6-7本のシングレット微小管を小胞が囲む構造をとっており、その運動は鞭毛・繊毛と大きく異なる。ハプトネマの長さは種によって異なるが、我々が研究対象としているChrysochromulina属では長いものでは細胞の10倍にまで達するハプトネマを有する。ハプトネマが機械刺激を受けると、数ミリ秒以内という高速でコイル状に縮む「コイリング」が見られる。この現象はカルシウム依存的に起こることがわかっているが、微小管には分子モーター様の構造は見られず、微小管がいかに変化してコイリングが起こるのか、その機構はいまだ謎に包まれている。また、ハプト藻類がなぜハプトネマを獲得し進化してきたのか、明確な答えは得られていない。最近の研究で、酸性化の進行によりChrysochromulina属の増殖が阻害的な影響を受けることが明らかになっており、ハプトネマの生理機能やコイリングメカニズムの解明は、広く海洋生態系の解明に寄与すると我々は考えている。本講演では、ハプト藻を特徴づけるハプトネマの高速コイリングのメカニズムを明らかにする目的で、我々がChrysochromulina sp.を用いて明らかにしたいくつかの研究成果を紹介したい。まず、微小管脱重合阻害剤であるタキソールの存在下で弱い周期的な屈曲が形成されること、カルシウム依存的な高速コイリングが阻害されることを見出した。これは、コイリングに微小管のダイナミクスが関与していることを示している。さらに、電子顕微鏡による観察の結果、6-7本の微小管のらせん型配置と、微小管どうしをつなぎとめる繊維状構造を明らかにした。ハプトネマのプロテオミクス解析の結果も含め、現在までに得られている知見からハプトネマのコイリングメカニズムを考察したい。