ケイソウは不等毛植物に含まれる藻類で、珪酸質の被殻に覆われている。羽状目ケイソウの多くは活発な滑走運動を行い、その速度は2-30μm/秒である。被殻には縦溝と呼ばれるスリットがあり、ここから粘液物質が分泌されこれを足場として運動しており、粘液物質は細胞内のアクトミオシンで駆動されていると考えられているが、粘液物質とアクチンの存在は確認されているものの、その他については不明である。ケイソウミオシンを同定するために単細胞性のメガネケイソウ(Pleurosigma sp.)からミオシンの抽出を行った。殻をガラスビーズで分割し、3 M NaClで抽出したところ、ATP感受性の 130 kDaアクチン結合タンパク質が見出された。部分アミノ酸配列を決定したところ、全ゲノム配列が決定されているPhaeodactylum tricornutumのミオシンと高い相同性があった。また、モノクローナル抗体で蛍光抗体染色したところ、アクチンに沿った染色が見られた。これらのことから130 kDa アクチン結合タンパク質がケイソウミオシンであることが強く示唆された。イカダケイソウは群体性の羽状目ケイソウで、細胞が一層に積み重なった形態を持つ。群体内の細胞は隣接する細胞との間で活発な滑走運動を行う。電子顕微鏡で観察すると細胞間には粘液物質様のものが観察され、これによって細胞同士が接着していることがわかった。また、細胞内には2本1組になったアクチン繊維束が細胞の上下に存在しており、アクチンおよびミオシン阻害剤で運動が阻害されることから、運動の原動力発生にはアクトミオシン系が関与していると考えられた。細胞を懸濁して群体を解離させ、ポリスチレンビーズを添加したところビーズが縦溝に沿って往復運動するのが見られた。また、蛍光-concanavalin Aで染色したところ、縦溝に沿った帯状の染色が見られ、これが細胞の滑走に従って伸縮するのが見られた。一方、メガネケイソウでは滑走中にsucciny-wheat germ agglutinin結合物質が断続的に分泌されているのが見られたが、必ずしも滑走運動とは同期しておらず他の粘液物質が滑走運動に関わっていることが示唆された。これらの結果から、ケイソウの滑走運動は縦溝から分泌された粘液物質が細胞内のアクトミオシンで駆動されて起こっていると考えられた。