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演題詳細

S6-4:
テトラヒメナにおける空間形状への適応的遊泳
○中垣 俊之 北大・電子研 nakagaki@es.hokudai.ac.jp
1935年、ブラムシュテッドは、ゾウリムシの空間形状記憶について興味深い報告をした。ゾウリムシは、三角や四角形の狭小空間をしばらく遊泳した後に広い空間に出ると、経験した狭小空間形状に添った遊泳をするというものである。その後、いくつかの異なるグループが類似の実験を試みたが、否定的な結論もあれば、肯定的な結論もあった。観察結果の素朴な事例報告が多く、決着はついていないように思われる。今回我々は、この積年の検討に決着を付けるべく、ゾウリムシをテトラヒメナに変え、空間形状を球形に限定して、改めて追試した。ただし、球形空間の大きさを段階的に変え、十分な実験繰り返し数を確保して、統計的な検定を実施した。結論は、肯定的であった。広い空間に出たとき、およそ半数のテトラヒメナが円形軌道を描き、その直径は経験した狭小空間の直径に正比例した。一方、残りの半数程度のテトラヒメナは、経験した狭小空間の影響がはっきりと認められず、直線的な遊泳を示した。個体による差が、非常に大きく、今後検討すべき興味深い課題である。このような空間適応的遊泳が、どのようなしくみでもたらされるかについて単純化した模型(遊泳の運動方程式)を構成して、検討した。繊毛虫の行動は、百年前から繰り返し報告されているように、多彩である。それらは、繊毛打制御、すなわち膜電位動態へと帰着できる可能性がある。その意味において、繊毛虫の物理行動学なる方向性が期待できる。本発表は、國田樹博士(実験パートのリーダー)、手老篤史博士(模型パートのリーダー)らとの共著論文(I. Kunita, T. Yamaguchi, A. Tero, M. Akiyama, S. Kuroda, T. Nakagaki, A ciliate memorizes the geometry of a swimming arena, J. R. Soc. Interface (2016) VOl.13, 20160155; DOI: 10.1098/rsif.2016.0155)に基づいている。
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