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演題詳細

S6-5:
タイヨウチュウはどのように仲間とエサを見分けているのか?
○洲崎 敏伸 神戸大・院理 suzaki@kobe-u.ac.jp
真核生物における自己・非自己の認識機構の進化的な原点は原生生物にある。すなわち、ほとんどの原生生物は、同種の原生生物を攻撃したり共食いしたりすることはないし、エサを正しく認識して捕食している。たとえばアメーバAmoeba proteusは同種のアメーバをエサとして共食いすることは絶対にない。これには、アメーバが分泌して細胞表面に付着する小型ペプチドが自己認識の標識分子として利用されていると考えられている。この仕組みは動物細胞のMHC分子を用いた自己・非自己の認識機構と類似している。また、太陽虫の一種Actinophrys solはエサの認識にβ-1,3グルカン結合タンパク質(βGBP)を利用している。このタンパク質は、細長く伸びる軸足という細胞質突起の中に存在する分泌性の小胞の中にふだんは格納されている。エサの候補である何らかの物体が軸足の表面に接触すると、軸足はその物質を軸足の表面に付着させたままで急速に短縮するとともに、βGBPを細胞外に放出する。エサの表面にグルカン分子が存在した場合には、グルカン分子にβGBPが結合し、その結果形成されたグルカン・βGBP複合体は、タイヨウチュウの細胞表面での仮足の形成を誘導し、最終的にエンドサイトーシスがひきおこされて捕食行動が完了する。このようなβGBPを介したエサの認識機構は、多細胞生物で広く知られているパターン認識受容体を用いた病原菌などの異物の認識機構と極めて類似しており、自然免疫応答の進化的起源であると考えることができる。太陽虫類の軸足は、エサの接触以外にも、多様な刺激に敏感に反応してその長さを変化させる。たとえば、様々な種類の水溶性毒物に対しても、太陽虫は軸足を短縮させる反応を示す。太陽虫類の一種であるRaphidiophrys contractilisは、普段は水底の一か所に定着してほとんど動かない。しかし、毒物を検知すると、体から伸びている多数の軸足を急速に縮め、丸くなる。その結果、水底への付着性がなくなり、水流に乗って流れ去る。その結果、有害な水環境から逃避できると考えられる。R. contractilisの各種毒性物質に対する反応性は、魚類(メダカ)や甲殻類(アルテミア)などと比較して100~10,000倍鋭敏であり特に水銀などの重金属イオンに対して高い感度を示した。毒物を検知するのに必要な時間も約20分と短く、持ち運びできるほどの超小型(重量5kg)の水質モニタリング装置を作ることができたので紹介する。
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