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De novo meta-RNA-seqで混沌とした微生物コミュニティにおける微生物の働きや微生物同士の関係性をみる
○佐藤 由也1, 堀 知行1, 小池 英明2, Navarro Ronald R1, 柳澤 真紀1, 松尾 和幸1, 尾形 敦1, 羽部 浩1
1産総研・環境管理, 2産総研・生物プロセス
複雑な微生物コミュニティの中で「個々の微生物が何をしているか」を理解することは、微生物生態学における大きなチャレンジである。活性汚泥は100年以上にわたり世界中で水処理に利用されてきた、最も身近で重要なバイオテクノロジーである。一方、数千種類以上の微生物が混在する極めて複雑な微生物コミュニティであり、その性質については理解が進んでいない部分が多い。しかし、水不足が世界で大きな問題となっている現在、活性汚泥微生物の体系的な理解に基づき、水処理プロセスを最適化することには大きな意義がある。そこで本研究では、複雑な活性汚泥における微生物の働きを明らかにするために、網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq)に取り組んだ。従来、RNA-seqには対象微生物のゲノム情報が必要であり、ゲノム情報の乏しい活性汚泥の解析は困難であったが、本研究では鋳型ゲノムに依存しない手法(de novo RNA-seq)を世界に先駆けて適用した。
対象としたのは難分解性の重油含有廃水を処理するリアクターである。現在、産業廃水を高度処理して再利用することに需要があるが、廃水に重油が混入することで微生物の処理能が低下することが問題となっている。2基の水処理リアクター(Reactor 1, 2)を用い、同じ条件で重油含有廃水処理を行ったにもかかわらず、Reactor 1とReactor 2では重油の分解効率に大きな差が見られた。Reactor 2では重油の主成分であるアルカンや多環芳香族化合物が残存し処理能が低かった一方で、Reactor 1ではそれらの蓄積はほとんど見られず、効率的に重油分解が行われていた。遺伝子発現解析の結果、脱窒菌が重油の分解を担っていることが明らかになったが、その存在量や分解酵素の発現量は両リアクター間で大差なかった。しかし、脱窒菌の呼吸基質である硝酸イオンの供給系(アンモニア酸化)の活性はReactor 1でだけ高く、これによって重油分解活性が促進されていたことがわかった。興味深いことにアンモニア酸化菌の存在量は全体の0.15%未満であり、このマイナー種によってリアクター全体の重油処理能が左右されていた。