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演題詳細

P-020:
超高速化量子分子動力学法に基づくマルチスケール計算化学によるバイオフィルム成長シミュレーション
○佐藤 亮, 長山 千恵子, 畑 北斗, 石澤 由紀江, ボノー パトリック, 三浦 隆治, 鈴木 愛, 畠山 望, 宮本 明 東北大・NICHe
便器など,生活空間の水回りの汚れは,分子レベルの目に見えない汚れが起点となり,最終的にバイオフィルムと呼ばれる汚れに成長する.本研究では,分子レベルの目に見えない汚れから,実スケールのバイオフィルムまでの汚れ蓄積を解析できる,マルチスケールシミュレータを開発した.分子レベルの汚れを解析する計算手法は,超高速量子分子動力学法(UA-QCMD)を使用する.UA-QCMDは独自のTight-Binding近似により,原子軌道の形状とイオン化ポテンシャルをパラメータ化する事で,従来の密度汎関数法に基づく第一原理的手法と比較して,1000万倍高速に計算できる.またそれによって,より大規模な系を計算することが可能となった.この手法によって,基材表面とバイオフィルムを構成する物質との結合状態や,結合力,またバイオフィルムを構成する物質内部の結合力を分子レベルで評価できる.実スケールの汚れ蓄積を解析する計算手法は,キネティックモンテカルロ法を使用する.キネティックモンテカルロ法とは,確率論と乱数を用いて粒子の発生と移動などの施行を連続して行い,時間変化も考慮できるように拡張されたモンテカルロ法である.この計算手法では,基材表面のバイオフィルムを球状粒子として表現する.初期状態は,基材表面のランダムな位置にバイオフィルムの基となる菌体粒子を配置する.単位時間あたりのバイオフィルム成長量を計算し,時間経過と共に,バイオフィルム粒子を増やしたり,大きくすることでバイオフィルムの成長を実時間スケール・実スケールで評価できる.また,流体計算結果から得られたせん断応力によって,バイオフィルムの剥がれる量を計算することが可能で,バイオフィルムの成長から剥離を連続的に計算できる.現在,前述した分子レベルでの計算で得られた,基材表面とバイオフィルムを構成する物質との結合力や,バイオフィルムを構成する物質内の結合力を考慮することによって,汚れの剥がれやすさを実スケールで評価する試みも検討している.このように,分子レベルの目に見えない汚れから実スケールのバイオフィルムまで,マルチスケールでの汚れの成長挙動や剥がれやすさなどを解析可能なシミュレータを開発することで,理論に基づいた汚れの特性評価が可能となった.
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