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演題詳細

P-025:
細胞間情報伝達機構を介した集団化回避メカニズムの解明
○森永 花菜1, 豊福 雅典2, 尾花 望2, 野村 暢彦2 1筑波大院・生命環境, 2筑波大・生命環境系 cocoawayappari76@gmail.com
我々が言葉を介して会話を行うように、細菌同士もシグナル物質を介して情報伝達を行う。このシグナルを介した情報伝達機構では、制御下の遺伝子の転写量を変動させることで、様々な形質を変化させる。環境中では、シグナルの合成遺伝子のホモログを保持する細菌が多く存在することが報告されている。さらには、我々の研究室では、それらの遺伝子によって合成されるシグナル様の低分子化合物が、排水処理に用いられる微生物の凝集体である活性汚泥に存在することをメタボローム解析によって明らかにしている。これらのことより、環境中では多くの細菌が情報伝達をしながら生存していると考えられ、微生物生態を考える上で細胞間の情報伝達機構を理解することは、大変重要な意味をなす。そこで本研究では、環境中の細菌の情報伝達機構、さらにはその情報伝達が環境中でどのような役割を担っているのかを明らかにすることを目的とした。
本研究では、活性汚泥から頻繁に単離されるシグナル生産菌の一種であるParacoccus denitrificansを用いて解析を行った。P. denitrificansはシグナルとして炭素鎖C16のAHL (C16-HSL) を生産するが、その制御下の遺伝子群や形質に関しては未解明である。そこで、P. denitrificansにおいてC16-HSL非生産株 (ΔluxI) を作製し、RNA-seqによって網羅的な遺伝子発現解析を行った。その結果、ΔluxIではWTより転写量が上昇する遺伝子が288個、減少する遺伝子が134個存在することが明らかとなった。このことより、P. denitrificansにおいてもシグナルを介した情報伝達機によって遺伝子発現が調節されることが示唆された。さらに、興味深いことにΔluxIは液体培養中でWTでは観察されないような強凝集性を示すことが明らかとなった。また、ΔluxIにC16-HSLを添加すると凝集体が形成されないことより、P. denitrificansはC16-HSLを介して凝集体形成を抑制していることが示唆された。つまり、C16-HSLを介した情報伝達により、集団であることを認識することで、集団化 (凝集体形成) を回避していることが考えられる。今後は、P. denitrificansにおける情報伝達を介した凝集体抑制メカニズムの詳細な解析及び本行動の環境中での役割の解明を目指す。
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