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演題詳細

P-026:
菌体密度が微生物間相互作用に与える影響の解析
○勝亦 雄太, 豊福 雅典, 小川 和義, 野村 暢彦 筑波大院・生命環境
微生物の生息域は幅広い.河川・湖・海洋といった水圏,砂漠・土壌などの地圏から,動植物の体内にまで至る.孤立無援に存在すると考えられていたこれら微生物は,実は多くが集団を形成し,互いに関わり合いを持つこと(微生物間相互作用)が明らかになりつつある.例えばQuorum Sensing (QS)という微生物間相互作用は,微生物の呼吸,病原性,抗生物質耐性,運動性といった様々な性質を変化させており,実環境中における微生物の生態を理解する上で重要である.QSは微生物間で低分子化合物(シグナル物質)を受け渡すことで機能を発現するため,菌体密度依存的な機構だと思われる.菌体間距離が近づくほどシグナル物質の受け渡しが活発になり,発現が誘導されると考えられるためである.しかし,実際に菌体密度を制御し微生物の挙動を解析した例はほとんどない.そこで本研究では,菌体密度が微生物間相互作用に与える影響の解析を行った.菌体密度を制御する素材として,温度応答性高分子poly(N ?isopropylacrylamide) (PNIPA)に着目した.PNIPAは32℃を境に伸縮する性質を持つため,微生物を包括させたPNIPA担体に温度変化を与えることで菌体密度を制御できると考えた.まず,QSモデル細菌である緑膿菌Pseudomonas aeruginosa PAO1 (野生株)を包括したPNIPA担体を異なる温度条件で培養し,包括菌体の増殖挙動を観察した.結果,収縮したPNIPA担体では特異的に菌体数が増加することが分かった.この挙動にQSが関与するか確かめるため,続いてΔlasIΔrhlI (シグナル物質非生産株)を用い同様の実験を行った.結果,シグナル物質非生産株では野生株に見られた菌体数の増加は確認されなかった.また,体積変化を伴わない担体においては,野生株,シグナル物質非生産株のいずれにおいても菌体数の増加は観察されなかった.以上の結果から,収縮したPNIPA担体が作り出す高い菌体密度条件が,P. aeruginosaのQS発現を誘導する効果を持つことが示唆された.本研究により,菌体密度に応じて微生物のQS発現が制御されることが示唆された.
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