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緑膿菌における地理的分布とQuorum sensingシステムとの関連
○遠矢 正城1, 豊福 雅典1, 木暮 一啓2, 野村 暢彦1
1筑波大・生命環境系, 2東京大・大気海洋研
微生物は地球上のいたるところに存在し、様々な機能を発揮し環境適応している。近年では微生物同士がお互いにコミュニケーションをとりあうことで集団的な挙動を示し環境適応することもわかってきている。コミュニケーション機構の一つであるクオラムセンシング(Quorum sensing, QS)はシグナル物質を介し一定の菌密度になったことを感知し、様々な遺伝子の転写活性を調節する機構である。緑膿菌はQSによって病原性因子の放出やバイオフィルム形成を行うなど宿主内で集団的な様態を示し、抗生物質に対して物理的・化学的に耐性を獲得することから医療面で問題視されてきた日和見感染菌である。さらに緑膿菌はヒト体内だけでなく、土壌や河川などの自然環境中にも広範囲に分布しており、近年では貧栄養・高塩分濃度という極限的な外洋中からも単離が報告されている。従って、緑膿菌は非常に高い環境適応能力を有していると考えられる。宿主体内においてQSが重要な役割を果たしているとされる一方で、自然環境下での環境適応にQSがどのように寄与するのかといったことは明らかになっておらず興味深い点として挙がる。 本研究においては河川・湖・海洋といった水環境から採取された緑膿菌株を対象にし、地理的分布とQSシステムの多様性との関連を検証した。具体的には、それら緑膿菌株のQS制御下にある病原性色素ピオシアニン及び、QSシグナル(3-oxo-C12-HSL, C4-HSL, PQS)の生産量の比較を行った。その結果、河川や沿岸分離株はピオシアニン生産やQSシグナルの生産が顕著であり、外洋分離株ではそれらの生産量がPAO1と比較して大きく減少する傾向が示された。また外洋分離株に対し外部シグナルへの応答性を確認したところ、株によって異なる応答性を示した。さらにQS関連遺伝子の配列を解読し、アミノ酸配列を比較した結果、シグナルのレセプタータンパクやシグナル生合成酵素のアミノ酸配列がPAO1と比べて異なっていることもわかった。以上の結果から緑膿菌の地理的分布とQSシステムには相関があることがわかり、異なる環境下においてコミュニケーション方法を巧みに変化させることでよりその環境に適応していると考えられる。