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ゲノム上にGC含量の異なる2種類の16S rRNA遺伝子を有する好塩性アーキアの温度適応
多くの原核生物はゲノム上に複数コピーの16S rRNA遺伝子を有するが、それらの塩基配列に差はない。そのため、16S rRNA遺伝子は原核生物の系統解析に用いられてきた。一方、近年の全ゲノム解読によりゲノム上に塩基配列の異なる複数種の16S rRNA遺伝子を有する原核生物が報告されている。特に、好塩性アーキアHaloarcula属菌株は、ゲノム上に塩基配列では5%、GC含量では2%の違いがみられる2種類の16S rRNA遺伝子を有する。しかし、それらの生理生態学的な重要性については明らかにされていない。16S rRNAは二次構造を形成し、タンパク質合成の翻訳機能を担うリボソームの一部として機能する。二次構造を形成する塩基対のうち、グアニンとシトシン間で水素結合数が最も多い。そのため、16S rRNAのGC含量が高いほど、高温条件下でも二次構造は安定するとされている。実際に、16S rRNA遺伝子のGC含量は原核生物の生育温度と高い相関を示すことから、「Haloarcula属菌株は高温時には高GC含量(58-59%)の16S rRNAを含む耐熱性のあるリボソームを、低温時には転写時のエネルギー消費量の少ない低GC含量(56-57%)の16S rRNAを含むリボソームを機能させる」という仮説を立て、検証した。
はじめに、Haloarcula属6菌株を最低生育温度から最高生育温度まで培養し、各温度での2種類の16S rRNAの定量を行った。試料としたHaloarcula属菌株に共通して、最低生育温度(20℃)では、GC含量の低い16S rRNAがGC含量の高い16S rRNAの2倍量存在した。最高生育温度(50~55℃)では、GC含量の高い16S rRNAがGC含量の低い16S rRNAの1~1.8倍量存在した。次に、Haloarcula hispanicaを用いて、各16S rRNA遺伝子を含むリボソームRNAオペロンの変異株の作製と培養実験を行った。世代時間に着目すると、25℃では16S rRNA遺伝子を1コピーのみ有する変異株(25-28時間)に比べて野生株(17時間)で顕著に短かった。50℃では、GC含量の高い16S rRNA遺伝子を含むリボソームRNAオペロンのみを有する変異株(4.2時間)と野生株(4.2時間)の世代時間が等しかった。これらの結果より、低温時の増殖には2種類の16S rRNAが、高温時の増殖にはGC含量の高い16S rRNAが重要であることが示唆された。Haloarcula属菌株は昼夜で10℃以上温度差のある砂漠の塩湖や塩田から単離されている。そのため、2種類の16S rRNA遺伝子を利用することで、Haloarcula属菌株は生息環境の温度変動に適応している可能性がある。