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演題詳細

P-048:
白神山地からの酵母分離株と清酒醸造酵母との性状比較
○森山 裕理子1, 青山 嘉宏2, 横山 心結2, 殿内 暁夫1 1弘前大・院農, 2弘前大・農
【目的】我々は世界自然遺産・白神山地における酵母の生息環境・分布・系統的特徴に関して研究を進め、これまでに白神山地特有の酵母系統が生息すること、酵母はミズナラのリターと強く関連することを明らかにしてきた(2015年度微生物生態学会)。今回は、白神由来の酵母株の実用可能性を検討する過程で清酒酵母株との間で興味深い生理的な差異を見出したので報告する。【方法】白神山地を中心に採取したリター・樹皮などから集積培養によりS. cerevisiaeの分離を試みた。分子系統解析は4つのSNP領域(DSN1/NUP116/IntAY/IntFR)を用いて行った。分離株の数株を用いて合成培地(YPD培地/最小培地)や麹汁培地(Brix 11%)などの液体培地で培養し、清酒醸造株(協会901号他)との比較を行った。低pHでの生育比較には乳酸でpH 2.5-5.0に調整した培地を用いた。また、清酒醪中での生育を比較するために、小規模の清酒醸造試験(小仕込み)を行った。【結果・考察】 914の試料から80株のS. cerevisiae(以下白神酵母)を分離した(2016年8月9日現在)。分離に成功した試料の多くはミズナラ(分離株の32.9%)およびブナ(同じく26.3%)のリターであった。4つのSNP領域による系統解析により、白神酵母は一部を除いてワイン酵母・清酒酵母・他の野生株とは異なる複数のクラスターを形成した。 清酒の小仕込みにおいて清酒酵母醪のアルコール度数は19%であるのに対し、白神酵母醪は15%であり、白神酵母は醪中での発酵能力が著しく劣っていた。pH4.0以上の麹汁培地では白神酵母と清酒酵母の間に顕著な生育差は認められなかったが、pH 3.5以下では白神酵母の生育速度が清酒酵母に対して著しく低下した。一方、pH 3.5以下のYPD培地では清酒酵母の生育速度が白神酵母に比較して低下した。これらのことから、低pHの麹汁培地中に白神酵母の生育抑制因子や清酒酵母の生育促進因子の存在が推測された。白神酵母の低pHの麹汁培地での生育抑制は低pH麹汁培地(pH2.7)で継代培養することにより改善され、株によっては清酒酵母よりも良好な生育を示した。現在、低pH麹汁培地での白神酵母の生育抑制や継代培養による生育改善の原因を探るために、培地成分の分析・遺伝子の発現解析・代謝物解析を計画している。
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