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ldhAの確率的な発現によるpersister形成と制御
○山本 尚輝1, 一色 理乃1, 河合 祐人1, 田中 大器2, 関口 哲志2, 松本 慎也3, 常田 聡1
1早大院・先進理工・生医, 2早大・ナノ・ライフ創新研究機構, 3名大・医
近年、同一遺伝子を持つクローナルな細菌集団にも表現型に不均一性があることが明らかとなってきた。persisterは表現型の変異によって出現し、細菌集団中でほとんど増殖を行わず、増殖を標的とした抗生物質の影響から逃れて生き残ることができる。
当研究室ではこれまでに独自に開発した非分裂細菌を検出する大腸菌のpersisterマーカー株によってpersisterを分取し、トランスクリプトーム解析を行った。その結果、乳酸発酵遺伝子であるldhAがpersister形成に重要な関係性を持つことが示唆された。そこで、本研究ではldhAによるpersister形成の分子機構を明らかにすることを目的とした。
persisterは表現型の変異によって出現するために、集団レベルでpersisterを解析することは困難である。そこで、生細菌内でldhAの発現を可視化し、その発現量をシングルセルレベルで検出した。ldhAの発現を可視化するために、ldhAのプロモーター配列の下流に蛍光タンパク質であるVenusを持つプラスミドを作製し、大腸菌へ導入した。本株をマイクロ流体デバイス中で培養することで1細胞レベルのタイムラプス観察を行った。本研究で用いたマイクロ流体デバイスには高さ1μmの狭い流路が存在し、細菌を遊走させることなく長時間観察することが可能である。タイムラプス観察の結果、ldhAの発現は確率的で、一部の細菌が一時的に強く発現することが明らかとなった。さらに、ldhAの発現が見られた細菌は増殖抑制及び抗生物質に対する抵抗性を示したことから、大腸菌はldhAの発現によってpersisterを形成することが示唆された。
次に、ldhAを標的とすることでpersisterの制御を試みた。persisterは実際の環境中ではバイオフィルムなどの様々なストレス環境下で存在していることから、本研究ではその代表的なストレス環境として、貧栄養環境、酸性環境、嫌気環境下で培養した。各環境下で大腸菌のldhAノックダウン株をCRISPRiによって作製し、抗生物質投与後の生存率を調べた結果、嫌気環境のみでpersisterが有意に減少した。以上の結果から、ldhAが嫌気環境においてpersister制御の標的となり得ることが示唆された。