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大腸菌のpersister形成を誘導する多様な経路
【目的】1つの細菌から増殖したクローン集団は全て同じ性質を持つとされており、集団中の各個体間の差は平均化されている。しかし近年の1細胞レベルの観察技術の発展により、遺伝子的にクローンな集団であっても、多様な表現型を持つことが分かってきた。特にpersisterと呼ばれる表現型は細菌の重要な生存戦略となっている。persisterとは自ら増殖を抑制している状態の細菌であり、細胞増殖を標的としている抗生物質に高い抵抗性を示す。persisterは集団中にごく一部しか存在しないが、致死的な環境の変化に対しても全滅を防ぐ役割を持っている。しかし集団中の一部でのみpersisterが生まれる分子機構はいまだ明らかとなっていない。【方法】persister形成に関わる分子機構を明らかにするため、persisterを選択的に分取する手法を開発した。細胞分裂時にのみ重合することが知られるFtsZをターゲットとして、その両端にCFPおよびYFPの蛍光タンパクを融合した。融合タンパク質YFP-FtsZ-CFPは通常時にはCFP蛍光を発するが、分裂している細菌ではYFP-FtsZ-CFPが近接することで蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET) を起こし、YFP蛍光を発する。このFRET蛍光の有無を基にセルソーターを用いて分裂細菌と非分裂細菌を分取し、トランスクリプトーム解析によって非分裂状態で特異的に発現している遺伝子を網羅的に解析した。また、網羅解析によって明らかとなった遺伝子がpersister形成に関与していることを過剰発現およびCRISPRiを用いたノックダウンにより確認した。【結果・考察】persisterでは嫌気代謝の遺伝子が高発現していることが示唆された。そこで候補遺伝子の過剰発現株を構築して抗生物質から生き残る割合を評価した。その結果乳酸発酵遺伝子であるldhAの過剰発現によってpersisterは100-1000培増加した。しかしノックダウン株では培養条件によってはpersisterの減少が見られなかった。そのためpersisterが減少しなかった環境では、ldhA以外の経路を介してpersister形成が起こっていると考えられる。そこで培養環境を変化させ、それぞれの環境からpersisterを分取し、RNA-sequencingを行った。現在トランスクリプトームを解析中である。