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芳香族・脂肪族ポリエステルによる土壌微生物叢および植物成長への影響
○鈴木 美和, 室井 文篤, 橘 熊野, 小林 由紀子, 櫻井 喬典, 粕谷 健一
群馬大・院理工
【目的】脂肪族芳香族共重合ポリエステルであるポリ(ブチレンアジペート-co -テレフタレート)(PBAT)は、生分解性を有する高分子で、生分解性マルチフィルム材に用いられている。PBATは農業用途に用いられるため、PBATが土壌微生物叢に与える影響を評価することは重要である。本研究ではPBATの生分解に伴う周辺土壌の微生物叢への影響および植物の生育への影響について調べた。
【方法】PBATフィルムを埋設した土壌を30 °Cで好気的に保持し、所定の時間ごとにフィルムおよび土壌を採取した。回収した土壌およびフィルム表面に付着した土壌から微生物のメタゲノムDNAを回収し、リボゾーマルDNA(rDNA)をターゲットとしてポリメラーゼチェインリアクション-変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(PCR-DGGE)法を用いて、土壌微生物叢解析を行った。さらにPBAT埋設土壌を用いてBrassica rapa var. chinensis(チンゲンサイ)の植物育成試験を行った。コントロールとしてフィルムを含まない土壌を用いて、微生物叢解析および植物育成試験を行った。【成績】3ヵ月後のPBATフィルム表面に付着した土壌試料中にのみHyphomicrobium属およびCaenimonas属に近縁な種が存在していることがわかった。この結果から、3ヶ月間でPBATフィルム周辺の細菌叢が変化することがわかった。真菌をターゲットとした微生物叢解析の結果、7ヶ月後のフィルム表面に付着した土壌には子嚢菌門に属する真菌類が存在していることがわかった。この結果から、7ヶ月間でフィルム周辺の真菌叢が変化することがわかった。土壌埋設試験7ヶ月後のコントロールを含む全ての土壌試料中で、植物病原性微生物が確認された。一方で、PBATフィルム表面および埋設土壌中には植物成長を促進する根圏細菌(PGPR)であるAzospirillumおよびMesorhizobium属も検出された。そこで、PBAT埋設土壌を用いて、B. rapa var. chinensisを栽培し、乾燥重量により生育度合いを評価した。その結果、PBAT埋設土壌およびコントロール土壌で生育したB. rapa var. chinensisの乾燥重量はそれぞれ0.089 gおよび0.076 gであり、PBAT埋設土壌は、B. rapa var. chinensisの生育に対して負の影響を及ぼさないことが示された。
【結論】PBATの埋設に伴いフィルム表面付近および埋設土壌中の微生物叢が変化することが明らかになった。一方、PBATの埋設に伴う土壌微生物叢の変化は植物の生育に負の影響を及ぼさないことがわかった。