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演題詳細

P-081:
土壌細菌群集によるリン可給化能の維持機構
○美世 一守1, 丸山 るな2, 齋藤 利仁2, 磯部 一夫1, 國頭 恭2, 妹尾 啓史1, 大塚 重人1 1東大・院農, 2信大・理 mise-33@g.ecc.u-tokyo.ac.jp
【背景と目的】土壌圏は,一般に可給態リンに乏しいことが知られている。このため,土壌微生物の生存・増殖には土壌中に多様な形態で存在する不可給態リンを利用する必要があり,土壌微生物群集には不可給態リンを可給化する機能が備わっている。こうした土壌微生物群集の機能は土壌圏におけるリン循環の中枢を担っているため,環境の変化に対して極めて頑強であると想定される。微生物群集機能の頑強性は生態系機能の維持の観点では重要なものだが,微生物資材の施与による土壌改良・施肥削減の障壁となることが指摘されている。しかし,この頑強性を担保する原理について検討を行うことで,そのような障壁をかわす方法を見出せる可能性がある。本発表では,頑強性の背後に存在する原理について(1)特定の菌群から成る可給化の担い手(キープレーヤー)の不存在 (2)群集構造形成の偶然性と必然性 の2点から検討する。
【方法】2種類の黒ボク土にC源・N源を添加し,リン制限条件のマイクロコズム系を構築した。これらの土壌マイクロコズムを1~24日の範囲で培養し,培養後の土壌について細菌群集構造(16S rDNA)・ホスファターゼ遺伝子phoD組成をAmplicon Sequencingで解析するとともに,土壌酵素活性(ホスファターゼ・β-グルコシダーゼ)ならびに理化学性を測定した。培養は,添加物質・培養期間の条件ごとに3 biological replicatesで実施した。
【結果と考察】(1) 2種類の土壌いずれにおいても,個々の分類群の組成割合はホスファターゼ活性に連動しなかった。また,phoDのα多様性は一定であり,16S rDNAのα多様性やホスファターゼ活性との間に相関は見られなかった。したがって,ホスファターゼ産生を特別に担う「キープレーヤー」は存在しないと考えられる。 (2)3反復間のばらつきは,酵素活性については一貫して小さかった(概ねSD<0.1)。他方,群集構造は3反復間で全く異なる場合と,ほぼ一致する場合の両方があった。反復間のばらつきは,撹乱直後における群集構造形成過程の一回性・偶然性(stochastic / neutral process)を示唆するものの,破壊系の3反復で十分な検証を行うのは難しいようである。もっとも,培養期間全体を通じた群集構造変遷の大局は,土壌の処理方法によらず類似していた。このため,長期的に見れば一定の必然性(niche-based process)を肯定することも可能であろう。
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