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演題詳細

P-086:
比較プロテオミクスによるアラスカ永久凍土氷楔由来放線菌の休眠状態の代謝生理解析
○池 晃祐1, 長倉 美琴2, 高須賀 太一3, 堀 千明1, 寺島 美亜4, 北川 航1,5, 加藤 創一郎1,5, 曾根 輝雄3, 鎌形 洋一1,5 1北大院農, 2北大農, 3北大院食資源, 4北大低温研, 5産総研生物プロセス k-ike@chem.agr.hokudai.ac.jp
芽胞非形成バクテリアには環境ストレスに対応して「生存してはいるが増殖しない」状態、いわゆる休眠状態に陥るものがいる。我々のグループはアラスカの楔状に発達した永久凍土層から新属新種の芽胞非形成放線菌Tomitella biformata AHU1821Tを単離し、本菌を人工的に休眠状態へ誘導可能であることを見出した。このような休眠状態が氷中での長期生存に関与していると考えられているが、その分子機構は不明である。本研究では休眠の代謝生理の解析を目的とし、本菌株の休眠および増殖細胞を用いた比較プロテオーム解析を行った。休眠細胞の調製は次のように行った。液体栄養培地で前培養したTomitella菌体を生理食塩水で2度洗浄した後、フルクト―スを加えた液体最小培地にOD600が0.01となるよう接種した。本培養は30 mL容バイアルチューブに20 mLの培地を添加し、チューブの口をブチルゴム栓で覆う酸素制限状態で行った。溶存酸素濃度がほぼ0になるまで振盪培養した後、静置に切替えて培養を継続した。本手法で約2か月静置して得た休眠細胞と通常の好気的な対数増殖期細胞からビーズ式細胞破砕によって全タンパク質を抽出し、質量分析によるプロテオーム解析に供した結果、休眠細胞からは2,003タンパク質、対数増殖期細胞から2,135タンパク質が検出・同定された。そのうち約250個のタンパク質は休眠・増殖条件で有意に発現強度が異なっており、その中には中枢代謝関連タンパクも多く含まれていた。解糖系の酵素群はその多くが休眠条件で高発現していた。一方TCA回路の酵素群は、上流・下流の酵素群こそ休眠条件で高発現がみられたものの、2-オキソグルタル酸脱炭酸酵素の発現が非常に低く抑えられていた。この結果は、TCAの酸化サイクルは機能しておらず、嫌気性代謝でよくみられるオキサロ酢酸からコハク酸への還元反応が進行していることを示唆する。また呼吸鎖電子伝達系のタンパク質群では、通常使われる末端酸化酵素であるシトクロムc酸化酵素の発現が休眠条件で低下し、高い酸素親和性を持つシトクロムbd型キノール酸化酵素の発現が上昇していた。またグルタミン酸シンターゼなどアミノ酸生合成に関わる酵素発現量は低下しているものが多かった。以上の結果から、本来偏性好気性である本菌は休眠状態において、アミノ酸合成などの同化的代謝を低下させ、嫌気型に近いエネルギー代謝を活性化させることで生命を維持しているものと考えられる。
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