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土壌細菌の多様性の標高変化に対する土壌特性と植物多様性の相対的重要性
【目的】森林における土壌細菌群集の標高変化を理解することは、地球温暖化などの環境変動に対する有機物分解速度や物質循環の変化を予測するのに役立つ。これまでの研究から、土壌細菌群集の標高変化は温度や土壌特性に依存することが明らかにされてきた。一方、植物は落葉落枝や根滲出物を土壌に供給するため、植物と土壌微生物の多様性の間には関係があることが知られている。本研究では、土壌細菌の多様性が、土壌特性だけでなく、標高に伴う植生変化、特に樹木の種多様性と機能的多様性の変化から強く影響を受けているという仮説を立て、土壌細菌の多様性を規定する要因を明らかにすることを目的とした。
【方法】東京大学秩父演習林の天然林において、標高傾度(900 m~1800 m)に沿った60ヶ所の調査区(30 m 四方)を設置し、植生調査と土壌採取を行った。2014年5月下旬から6月上旬に、深度ごと(0~5 cm・5~10 cm・10~20 cm・20~30 cm)に土壌を採取し、真正細菌の16S rRNA遺伝子V4領域を対象としたアンプリコンシーケンス解析、および土壌特性(pH・EC・含水率・CN比)の分析を行った。また、調査区に出現する樹木種については、各種3~5個体の葉を採取し、機能特性として比葉面積・総フェノール・CN比を測定した。これらのデータから、土壌細菌のOTU数および調査地間のOTUの入れ替わりと、土壌特性・樹木の種多様性・樹木の機能的多様性との関係を調べるために、重回帰分析を行った。
【結果】土壌細菌のOTU数は土壌深に伴って減少し、深度0~5 cmおよび5~10 cmで標高と有意な負の相関を示した。また、標高と樹木の種多様性には有意な負の相関が見られた。土壌細菌のOTU数に対する重回帰分析の結果、特に5~10 cmの深度において、葉のCN比の多様性が土壌pH・EC・樹木の種多様性より強い相関を示すことが明らかとなった。また、調査地間の土壌細菌のOTUの入れ替わりに対しても同様の解析を行った結果、深度0~5 cmでは土壌特性の違いに比べて、樹木種の入れ替わりが強い正の相関を持っていることが明らかとなった。これらの結果から、標高に沿った樹木の種多様性と機能的多様性の変化によって、表層土壌の細菌群集が形成されていることが示唆された。さらに、深度10~20 cmおよび20~30 cmでも、土壌細菌のOTU数と樹木の機能的多様性に相関が見られ、樹木の機能特性が細菌群集を規定していることが示唆された。