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微細藻類由来の溶存態有機物が沿岸性海洋細菌群集組成に及ぼす影響
海洋微細藻類由来の溶存態有機物(DOM)は、海洋細菌の生物量や群集組成を変動させる主要要因とされ、DOMを介した両生物間の相互作用は、海洋生態系およびDOM動態を理解する上で重要である。本研究では、微細藻類から抽出したDOMのアミノ酸組成比および蛍光特性を明らかにすると同時に、抽出DOM添加に対する沿岸性海洋細菌群集の動態を明らかにすることを目的とした。珪藻Thalassiosira weissflogii CCMP1336株および渦鞭毛藻Heterocapsa triquetra CCMP449株を培養し、集藻後、細胞を破砕し、微細藻類抽出DOMを得た。抽出DOM中のペプチド態および遊離態アミノ酸組成比をニンヒドリンHPLC法によって、また、蛍光特性を三次元励起蛍光スペクトル法により解析した。これらの抽出物質を北海道忍路湾表層から採取した天然海水に添加し、微細藻類由来DOM添加に対する細菌群集構造・多様性の変動、さらに、微生物変化に伴う蛍光性DOMの変化を解析した。珪藻および渦鞭毛藻抽出DOM中のアミノ酸組成比およびDOMの蛍光特性は、2種の藻類間で違いが見られた。16S rRNA遺伝子を標的としたT-RFLP法およびIon Torrentを用いた細菌群集構造解析の結果、珪藻と渦鞭毛藻由来のDOM添加では細菌群集の構造および多様性に与える効果が異なっていた。群集構造の変化は、渦鞭毛藻由来DOM添加区で大きく(コントロール区に対して50.4%)、これらの変化には主にRhodobacteraceaeが寄与していた(15.4%)。また、珪藻由来のDOM添加区では、主にRhodobacteraceae、Alteromonadaceae、Flavobacteriaceaeが変化に寄与していた(それぞれ11.1%、8.8%、5.7%)。培養前後の蛍光性DOMの変化として、渦鞭毛藻抽出DOM添加区では、全てのタンパク質様および腐植様物質由来の蛍光強度が減少したのに対し、珪藻抽出DOM添加区では腐植様物質の蛍光強度が上昇した。本実験の結果から、微細藻類由来DOMの変化が海洋細菌群集構造・多様性の変化を起こすこと、また、これらの変化に伴って海水中の蛍光性DOM組成が変化することが明らかとなった。