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超閉鎖性内湾の季節的な貧酸素化にともなう水柱細菌群集の組成変化
【背景と目的】溶存酸素濃度(DO)は水圏生物の増殖と生残に関わる重要な因子であり、水圏生態系の物質循環に大きな影響を与える。しかし、内湾の季節的な貧酸素水塊形成にともなう微生物群集の組成や活性変化について知見は乏しい。本研究では超閉鎖性内湾として知られる長崎県の大村湾において、貧酸素水塊形成期の水柱細菌群集の組成変化を明らかにし、同海域の物質循環に関わる微生物学的な知見を得ることを目指した。【方法】2015年5~9月に大村湾中央部(水深21 m)を観測し、表層、中層および底層(水深1 m、11 m、20 m)で採水した。試料由来の環境DNAを鋳型としMiSeqを用いた16S rRNA遺伝子配列のTagシークエンス解析を行った。配列データをMothur (Schloss et al. 2009)および、統計ソフトR のvegan パッケージ(Oksanen et al. 2007)で解析した。【結果】大村湾中央部の水柱細菌群集構造は貧酸素期と通常期で異なる傾向が見られた(ANOSIM, Global R = 0.257, p = 0.086)。観測期間中、 Alphaproteobacteria のSAR11 cladeがすべての採水層で最も優占していた(平均OTU存在比 = 72.7%,n = 12)。貧酸素化初期(6月)の底層水中において、SUP05として知られる Gammaproteobacteria の硫黄酸化細菌系統群のOTU存在比は通常期の0%から8%に増加し、Chloroflexi のSAR202(0→1%) および Deltaproteobacteria の Myxococcales (0→0.1%)の存在比もそれぞれSUP05と同様に6月の底層水中で増加した。【考察】大村湾における貧酸素水塊の形成に伴い水柱の細菌群集構造は変化したが、通常酸素期との差は必ずしも明瞭ではなかった。しかし、大村湾の水柱におけるSAR11 cladeの優占や、貧酸素水塊形成初期のSUP05の増加は、超閉鎖性内湾においても外洋性の酸素極小層と共通した細菌群によるエネルギー代謝が卓越する可能性を示唆している。