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水田土壌に優占する微生物の新機能:鉄還元菌こそが窒素循環に重要である
Iron reducing bacteria are principal drivers of nitrogen transformation in rice paddy soil
湛水下の水田土壌においては、酸素濃度が著しく低い嫌気的な環境が発達する。この環境下では、土壌中の異化的窒素還元反応(窒素生成型硝酸還元(脱窒)、アンモニア生成型硝酸還元(DNRA)、窒素固定)が進行し、このことが畑土壌では見られない『硝酸の低溶脱』『窒素肥沃度の維持』といった水田土壌の環境保全性の基柱であると考えられている。しかし、これらの反応を駆動する微生物群の包括的な理解は未だ達成されていない。従来、水田土壌中の異化的窒素還元反応微生物群を明らかにするためにPCRベースの手法が多く用いられてきたものの、近年の研究によりPCRベースの手法は解析対象の微生物群の多様性を著しく低く見積もってしまう可能性が指摘されている。そこで本研究では、そのようなリスクを回避することができるメタゲノム・メタトランスクリプトーム解析により、水田土壌中の異化的窒素還元反応に関わる微生物群集構造の解明を試みた。 土壌DNAおよびRNAに基づくオミクス解析により、従来のPCRベースの手法でよく検出されてきた脱窒菌や窒素固定菌のものよりも、PCRベースの手法では検出されてこなかったDeltaproteobacteria綱細菌由来の異化的窒素還元反応の酵素遺伝子が極めて高頻度に検出され、Deltaproteobacteria綱細菌が還元的窒素循環反応に最も寄与していることが示唆された。その中でも、これまで世界的に水田土壌に優占することが知られ、鉄還元反応を駆動する細菌として有名なGeobacterやAnaeromyxobacter由来の一酸化窒素還元酵素、一酸化二窒素還元酵素の各遺伝子(nor, nos)、DNRAの鍵酵素遺伝子(nrf)、窒素固定遺伝子(nif)の転写産物が高頻度に検出された。これらのことから、これまで窒素還元への関与がほとんど議論されてこなかったGeobacterやAnaeromyxobacterが、脱窒反応の一部を担って硝酸を速やかに無機化し、DNRAや窒素固定によってアンモニアを生成している可能性が高く、それらが水田土壌の硝酸溶脱の低減や窒素肥沃度の維持に大きく寄与していることが示唆された。 本研究は、水田土壌の窒素循環を駆動する微生物群集構造に関する知見を大いに刷新し、生態系におけるGeobacterやAnaeromyxobacterの新たな機能を提唱するものである。